公益財団法人不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター) > 不動産相談 > 賃貸 > 賃貸借契約における賃貸人の共益費値上げ要求の適否。

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2410-R-0282
賃貸借契約における賃貸人の共益費値上げ要求の適否。

 賃貸借契約の更新を機に、賃貸人は賃料と共益費の値上げを希望している。賃借人は、賃料の値上げは受け入れるつもりだが、共益費の増額要求についての法的根拠がないと応じる意思がない。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介兼管理業者である。1棟管理している賃貸マンションの賃貸人から、共益費の値上げができないか相談があった。同マンションは5階建てで1階を店舗、2階を事務所、3階から5階を居住用として賃貸している。建物は4年前に完成し、当社媒介で逐次賃借人が入居し、現在満室である。2回目の更新時期を迎え、賃貸人は、賃料と共益費の値上げを希望している。賃貸人が希望する賃料の値上げ幅は、同種の付近賃料相場から見ても妥当と思われる。当社は、入居者と話す機会があったので、それとなく値上げについて聞いてみたところ、賃料の値上げはやむを得ないという反応が多かった。共益費の値上げについても聞いてみたところ、何人かの賃借人から、共益費は賃料でないので、賃貸人はそもそも共益費の値上げ要求ができないのではないかと疑問の声があった。同マンションは、エレベーターを設置しており、法定点検や保守・修理費を共益費から支出している。また、清掃業務を専門業者に委託し、定期的に清掃業務を行っている。しかし、円安等の要因による燃料代や光熱費の高騰、人件費増等による委託業者の委託費増加、地価上昇による固定資産税負担増等があり、賃貸人は、受領している現在の共益費では共用部分や設備の維持管理費を賄うのが難しいと言っている。

質 問

 賃貸人は、建物賃貸借契約で賃貸人、賃借人間で賃料以外に毎月支払うことを約定している共益費の値上げを賃借人に要求できるか。

回 答

1.  結 論
 借地借家法規定の賃料の増減請求権に準じて、賃貸人は、賃借人に対して共益費の値上げを要求することが可能である。
2.  理 由
 建物の賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に建物の使用及び収益をさせ、賃借人は賃貸人に賃料を支払う契約である(民法第601条)。賃貸借契約における賃借人の金銭的負担は、契約時に一時金として支払う金員として礼金や権利金等があり、毎月支払う金員として、賃料以外に共益費、管理費等がある。共益費や管理費は、共用部分の清掃、設備維持管理、水道光熱費等の支払いに充て、毎月賃料とともに定額で賃貸人に支払うのが一般的である。賃貸する戸数が小規模の賃貸借契約では共益費や管理費の授受をしないか、賃料に含むとする契約も多い。実際に賃貸人が維持管理に充てる諸経費は必ずしも毎月一定額ではなく、本来は実費負担の性質を有するものであるが、「賃貸人、賃借人間の合意により、事務的便宜等のため、契約上一定額をもって支払義務を定めることは世上普通に行われている」と実費負担の性格がある共益費の一定額を毎月支払いうことを認めている裁判例がある(【参照判例】参照)。
 将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができると、賃貸人、賃借人それぞれに借賃増減請求権を有することが規定されている(同法第32条)が、共益費等の増減請求権についての規定はないものの、「共益費、清掃費等も増減の必要を生ずることは賃料の場合と変りがない」と増減請求を認めた裁判例がある(【参照判例】参照)。また、国交省の「賃貸住宅標準契約書」では、賃料の増減額要求(同標準契約書第4条)に加え、建物の維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、賃貸人、賃借人の協議により共益費を改定することができると当事者の増減額要求を例示している(同標準契約書第5条)。同標準契約書の解説コメントで、「共益費は賃貸住宅の共用部分(階段、廊下等)の維持管理に必要な実費に相当する費用(光熱費、上下水道使用料、清掃費等)として借主が貸主に支払うものである」と定義している。そして、「共用部分の維持管理に必要な費用に変動が生じた場合、当事者間の協議により改定できる」と増減権の約定を示している。そして、賃料の増減要素を、①土地又は建物に対する租税その他の負担の増減②土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動③近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合を例示している(同標準契約書第4条)が、共益費の変動要因について、同コメントで、「維持管理費の増減により共益費が不相当となった場合」とし、電気料金等が改定された場合を例示しているが、裁判例では具体的な共益費等の変動要因として、「共益費、清掃費についても、物価、公共料金、人件費その他の要因によりその増減の必要を生ずることは賃料の場合と変りがない」と共益費等の当事者の増減権について判示し、借地借家法の賃料の増減額の規定(民法第32条)の準用を認めているものがある(【参照判例】参照)。
 共益費や管理費等の増減の決定については、当事者の合意が必要であることは言うまでもないが、合意に至らないときは、裁判に委ねることになる。

参照条文

 民法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 借地借家法第32条(借賃増減請求権)
   建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
  ・③ (略)
 国交省「賃貸住宅標準契約書」第4条(賃料)
   第4条 乙は、頭書(3)の記載に従い、賃料を甲に支払わなければならない。
   (略)
   甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
     土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
     土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
     近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
 「同契約書」第5条(共益費)
   乙は、階段、廊下等の共用部分の維持管理に必要な光熱費、上下水道使用料、清掃費等(以下この条において「維持管理費」という。)に充てるため、共益費を甲に支払うものとする。
   前項の共益費は、頭書(3)の記載に従い、支払わなければならない。
   (略)
   甲及び乙は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる。
 ※甲=貸主 乙=借主
 《賃貸住宅標準契約書 解説コメント》5 共益費(第5条)
  【第1項】  共益費は賃貸住宅の共用部分(階段、廊下等)の維持管理に必要な実費に相当する費用(光熱費、上下水道使用料、清掃費等)として借主が貸主に支払うものである。なお、戸建て賃貸住宅については、通常は、共益費は発生しない。
  【第2項】  借主は、頭書(3)に記載するとおりに共益費を支払うこととしている。
  【第3項】  (略)
  【第4項】  共用部分の維持管理に必要な費用に変動が生じた場合(例えば電気料金等が改定された場合)、当事者間の協議により改定できることとしている。

参照判例

 東京地裁平成元年11月10日 判時1361号85頁(要旨)
 貸主、借主間の賃貸借契約には、借主は冷暖房費、電気、瓦斯、給排水、清掃費、町会費及び共益費又は管理費の諸費用を分担するものとし、貸主の計算する割合の毎月分の金額を賃料と共に支払うものとするとの約定があることが認められる。(中略)貸主、借主間においては契約の当初から共益費及び清掃費につき当事者間の合意により実費精算の方法によらず毎月定額をもって請求及び支払がされて来たことが認められる。
 共益費、清掃費は、本来実費負担の性質を有するものであるが、事務的便宜等のため、契約上一定額をもって支払義務を定めることは世上普通に行われているところであり、本件における右のような定め及び合意につきその効力を否定する理由はない。そして、共益費、清掃費についても、物価、公共料金、人件費その他の要因によりその増減の必要を生ずることは賃料の場合と変りがないから、本件の共益費及び清掃費についてはその増減の請求につき賃料の増減額に関する借家法(現、借地借家法)の規定の準用を認めるのが相当である。

監修者のコメント

 本相談ケースの一部の賃借人の「共益費は賃料ではないので、賃貸人はそもそも共益費の値上げ要求ができないのではないか」という疑問が、借地借家法の賃料増額請求権の規定を根拠としているのであれば、明らかな誤解である。明文規定はないが、【回答】及び【参照判例】の言うように、それが不相当となれば、一定額に固定する合意がない限り、増額請求をすることができる。ただ、共益費値上げのトラブルをみると、貸主がその理由や根拠を示さずに値上げ額を示すことが、しばしば見られる。共益費の積算の具体的数値を示すのが理想であるが、少なくとも各費目の値上り率を示すなど賃借人が納得する合理的根拠を示すべきである。

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