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2306-R-0263掲載日:2023年6月
未登記店舗の賃貸借とその法的問題点
当社は賃貸借の媒介業者であるが、このたび媒介を依頼された賃貸物件は登記のなされていない店舗である。
事実関係
当社は賃貸借の媒介業者であるが、このたびあるオーナーから店舗の賃貸借の媒介を依頼された。
そこで当社は、店舗の登記事項証明書を入手したところ、その店舗は登記がなされていないことが判った。そのため当社は、その店舗が建っている土地の登記事項証明書を入手したところ、乙区に、そのオーナーが土地を購入した際に借り入れたと思われる金融機関の抵当権の設定登記がなされていた。
質 問
1. | このような場合、媒介業者としてはまず何をなすべきか。 |
2. | このような店舗を未登記のままで賃貸しても、法的に問題ないか。 |
3. | 万一未登記の店舗が強制執行により競売に付されたら、賃借人の立場はどうなるか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 「なぜ建物に登記がなされていないのか」「建物の登記がなされていれば、建物にも抵当権の登記がなされるのではないか」の2点をオーナーに確認することである。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 賃貸はできるが、法的に全く問題がないとはいえない。 | ||
⑶ | 質問3.について ― 賃借人は、その強制競売の申立てをした債権者の差押えの登記の日より前に店舗の引渡しを受けていることになるであろうから、そうであれば競落人に対抗することができるので、競落後も引き続き店舗を使用することができる。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | ⑵について 一般に金融機関が融資に基づいて債務者の土地に抵当権を設定する場合、債務者が後日その土地上に建てる建物を追加担保として債権者に提供することを義務付けることが多い。その理由は、抵当権の設定後に抵当地に建物が建てられた場合、抵当権者は、その土地とともに建物も競売に付することができるのであるが(民法第389条第1項本文)、その場合の配当の優先権が土地についてのみのものになってしまうからである(同条ただし書き)。そのために、金融機関としては建物についても抵当権を設定し、土地・建物の両方から配当を受けることができるようにするのである。 したがって、媒介業者が「なぜ建物が登記されていないのか」「なぜ抵当権の登記が建物になされていないのか」を調べるには、まず最初にオーナー(債務者)が所持している金銭消費貸借契約書を見せてもらい、その契約書に「追加担保」の定めがあるかどうかを確認するということである。そして、もし契約書にその定めがあるにもかかわらず、建物の保存登記も抵当権の設定登記もしていないとすれば、オーナー(債務者)が契約違反をしているということになるので、それまでの債務の弁済状況いかんによっては、最悪の場合、金融機関から残債務の一括償還の請求を受け、その償還ができず、土地に対する抵当権設定後に建物が建てられた場合であれば、土地・建物が一括競売に付される可能性があるからである(民法第389条)。 |
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⑶ | について 【回答】の結論で述べたとおり、賃借人は、債権者からの強制競売の申立てに伴う差押えの登記の日より前に店舗の引渡しを受けていることになるので、そうなれば競落人に対抗することができ、そのまま継続して店舗を使用することができるが、それは、店舗が登記されていなくても同じように対抗することができるからである(借地借家法第31条)。 |
参照条文
○ | 民法第389条(抵当地の上の建物の競売) | ||
① | 抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。 | ||
② | 前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。 | ||
○ | 借地借家法第31条(建物賃貸借の対抗力) | ||
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。 |
監修者のコメント
同一不動産について権利が競合する場合は、原則として、それぞれの権利の対抗要件を備えた時期の先後で優劣(勝ち負け)が決せられる。例えば、建物の抵当権と賃借権の優劣は、抵当権の登記と賃借人が引渡し(占有)を受けた時の先後で決せられ、もし抵当権の登記のほうが先であれば、抵当権に基づく競売の買受人(競落人)は抵当権者と同一の立場であるので、賃借人はその競落人に対抗できず、要求があれば明け渡さざるを得ない。
しかし、本件の建物には表示登記も保存登記もされていないというのであるから、抵当権の登記もあり得ない。したがって、土地と建物の一括競売によっても建物を明け渡す事態に追い込まれることはない。
しかし、法律解釈とは無関係に紛争発生の可能性がないではない。