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2206-R-0250
賃借人が賃借建物の修繕要求を拒否したときに、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができるか。

 賃貸人が、賃貸建物の漏水事故の点検のために、賃借人の室内に立ち入ることを何度も要請したが、賃借人は頑なに拒んでいる。このままでは建物に傷みが生じるおそれがある。

事実関係

 当社は賃貸の媒介兼管理業者である。管理しているアパートの1階の部屋の入居者から、台所に上階からの水漏れがあると当社に連絡があった。当社は、賃貸人に連絡し、賃貸人とともに当該部屋を点検したところ、大量ではないが天井付近から水がしみ出しているのを確認した。壁には水漏れの跡はなく、雨漏りではないと判断した。アパートは建築後25年以上を経過している建物で、1、2階は同じ間取りなので2階に通ずる給水管の腐食または継ぎ手に不具合があると推測された。
 賃貸人から依頼を受け、当社は水道修理業者に相談したところ、建物の配管図から判断すると、2階の台所付近の給水管を点検する必要があり、点検するためには2階の床の一部を剥す必要があるとの見解であった。
 当社は、2階の賃借人に対し、水漏れの状況を説明し、点検及び修繕のために室内に立ち入る旨の承諾を求めたが、賃借人は、調査や工事は1階の室内又は外壁からできるのではないかと言い張っている。翌日、工事業者だけが室内に立ち入ることで、再度、賃借人に点検の協力を申し入れたが、賃借人は、頑なに室内へ立ち入ることを拒否している。

質 問

1.  賃借人は、賃貸人が賃借建物を修繕するための室内への立ち入りを拒否することができるか。
2.  賃借人が、修繕のための立ち入りを拒否し続けた場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃貸人が、賃借建物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は、原則、室内への立ち入りを拒むことができない。
 質問2.について ― 賃借人が、正当な理由がないにもかかわらず、修繕のための室内への立ち入りを拒否したときは、賃貸人は、契約を解除できる場合がある。
2.  理 由
⑵について
 賃貸人は、賃貸している建物の使用収益を妨げる損傷や不具合等を解消するために修繕、あるいは建物の保存・維持に必要な工事をする場合がある。建物内部を修繕するには、賃借人が入居している建物内に立ち入る必要もある。建物内に立ち入るときは、賃貸人は、賃借人に対して、事前に立ち入ることの承諾を求め、賃借人の同意の上、工事をすることになる。法律上、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」(民法第606条第1項)とされ、賃借人の賃借目的の使用収益に支障があるときは、修繕する義務がある。また、賃貸人は、必要な修繕をしないまま賃貸物を放置すると損傷の拡大や過大な修繕費用の負担が生じることが危惧される。建物の損傷が広がれば、建物価値の減少を引き起こしかねない。
 賃貸人が建物修繕の意向があっても、室内を他人に見られたくない等の理由で、賃借人が立ち入りを拒否することがある。しかし、賃借人は、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」(同法第606条第2項)ことが規定され、修繕に応じる義務がある。裁判例では、「賃貸物保存行為に対する認容義務は、賃貸借関係における賃借人の義務としては、附随的なものであることは明かであるが、賃借人の賃借物保管義務に関連を有する」と賃借人の容認義務を認めたもの(【参照判例①】参照)、「賃貸人が協力を要請する調査や工事が本件建物の保存に必要と認められるにもかかわらず、賃借人がこれを正当な理由なくして拒むときは、本件賃貸借契約上の債務不履行を構成する」と賃借人の債務不履行(同法第415条第1項)を断じたもの(【参照判例②】参照)がある。賃借人が建物修繕に協力しない債務不履行により、建物の損傷が進行し、そのために修繕費用が初期段階の修繕費用を上回ったときは、賃貸人から損害賠償を請求されることも考えられる。
 賃借人が建物の保管義務に違反したとき、または、賃貸人の保存行為を拒絶する行為は、賃借人の受忍義務違反であり、「賃貸人との信頼関係を破壊し、契約関係の継続を著しく困難ならしめる程度の不信行為に当たる」と賃貸借契約の解除事由と判断されれば、賃貸人からの契約解除ができると解している(【参照判例②】参照)。
 なお、国土交通省が公表している賃貸借契約書のひな形である賃貸住宅標準契約書(第9条)に、契約期間中の修繕に関する条項として、賃貸人が修繕する場合、「あらかじめ、賃借人にその旨を通知し、賃借人は、修繕の実施を拒否することができない」と規定されている。建物の経年変化以外にも、自然災害に見舞われることもある。媒介業者は賃貸借契約の際、賃借人に対し、賃貸人が建物の修繕をする場合があり、必要に応じて建物内に立ち入ることも含め、賃借人は修繕を拒むことができない旨を十分説明しておくことにより、修繕に関するトラブルの防止になるであろう。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   (略)
 同法第541条(催告による解除)
   当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
 同法第606条(賃貸人による修繕等)
   賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
   賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
 (国土交通省)賃貸住宅標準契約書第9条(契約期間中の修繕)
   甲(貸主)は、乙(借主)が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用については、乙の責めに帰すべき事由により必要となったものは乙が負担し、その他のものは甲が負担するものとする。
   前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ、その旨を乙に通知しなければならない。この場合において、乙は、正当な理由がある場合を除き、当該修繕の実施を拒否することができない。
  ~⑤ (略)

参照判例①

 横浜地裁昭和33年11月27日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃借人の賃貸物保存行為に対する認容義務は、賃貸借関係における賃借人の義務としては、附随的なものであることは明かであるが、賃借人の賃借物保管義務に関連を有するものであり、これがため賃貸借契約を為した目的を達することができない場合には賃貸人はこれを原因として賃貸借契約を解除することができるものと解するのが相当である。

参照判例②

 東京地裁平成26年10月20日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 建物賃借人は、賃貸人が行おうとする賃貸建物の保存行為に対する受忍義務を負っているから(民法第606条第2項)、建物保存のための調査や工事を当該賃借人の賃借部分で実施する必要があるときは、賃借人は、正当な理由なくして自己の賃借部分への立入り等を拒むことができない。
 賃貸人が協力を要請する調査や工事が本件建物の保存に必要と認められるにもかかわらず、賃借人がこれを正当な理由なくして拒むときは、本件賃貸借契約上の債務不履行を構成する。(中略)
 賃借人による漏水調査拒絶(保存行為の受忍義務違反)は、賃貸人との信頼関係を破壊し、契約関係の継続を著しく困難ならしめる程度の不信行為に当たるというべきであり、本件賃貸借契約の解除事由になると認められる。

監修者のコメント

 本ケースでは、2階の賃借人が言う「調査や工事は1階の室内又は外壁からできるのではないか」ということが正当かどうかで結論が決まる。そのような工事が不可能あるいは2階の点検による工事に比べて不相当な時間と費用がかかるのであれば、そのことを2階の賃借人に十分に説明したうえで、それでも拒否するときは、賃貸借契約の解除や損害賠償の問題になることを予告することが望ましい。

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