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2206-R-0249
被相続人と同居していた相続人は、継続して被相続人の遺産である建物に無償で居住することができるか。また、他の相続人に対して賃料を支払う義務はあるか。

 当社は、共同相続人の1人から相続した土地建物の売却を相談されている。建物には被相続人と同居していた他の相続人家族が居住しているが、その家族を退去させて土地建物を売却することができるか。遺産分割協議は終了していない。

事実関係

 当社は売買、賃貸の媒介業者である。共同相続人の1人から遺産である土地建物の売却を相談されている。相談者は、3人兄弟の長男であるが、弟と妹がいる。売却予定の土地建物に、被相続人の父親と弟家族が無償で住んでいたが、父親が亡くなったのちも弟家族が無償で住んでいる。母親は以前に亡くなり、父親の晩年には弟家族が生活の面倒を看ていた。
 長男と妹は独立しており、当該建物には居住していない。今般、長男は父親の遺産分割に当たり、長男自身が財産の2分の1、弟と妹は各4分の1としたいと考えているが、他の兄弟は、各自3分の1の法定相続分に従った分割を望んでいるため、協議は1年経過しているが解決しない。長男は、遺産分割するときは、父親名義の自宅は売却して兄弟で分けるので、遺産分割協議が調わなくても、手許に現金が用意できるように自宅を売却したいと当社に相談してきた。
 長男は、売却のために弟に対して建物を明け渡すように要求しているが、弟は、他に住むところのめどもなく、当面は、当該建物に居住を望んでいる。また、長男と妹は、相続建物を弟が占有していることについて、分割前の遺産は3人の共有状態であり、弟のみが無償で使用しているのは不当利得にあたり、弟は、長男と妹それぞれに対して、法定持分割合に相当する賃料(相場賃料の各3分の1)について、相続開始後の1年分を返還するとともに、建物明渡しまでの期間、支払うべきと言っている。

質 問

1.  父親名義の建物に相続人の1人が被相続人と同居していた場合、相続発生後に他の相続人から明渡しを要求されたときは、明け渡さなければならないか。
2.  父親の相続後、引き続き居住している相続人は、他の相続人に対して賃料相当額を支払う義務はあるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 特段の事情のない限り、被相続人との間に使用貸借契約が成立しており、一定の期間は引き続き無償で居住することができる。
 質問2.について ― 使用貸借契約により建物を占有・使用しているため、不当利得には該当せず、賃料相当額を支払う必要はない。
2.  理 由
について
 建物等の使用貸借は、所有者と関係の近い者が無償で使用収益をする場合が多く、契約書等の使用貸借を約定した証書等は存在しないのが通常であろう。建物所有者であった被相続人の父親は、弟家族と同居生活し、弟は父親の生活の支援をしてきた。弟と父親との生前の同居については、法律上、弟は占有補助者としての地位が認められるが、被相続人と弟との間に使用貸借契約があったとみることができる。そして、使用貸借は借主の死亡により終了する(民法第597条第3項)が、貸主の死亡により効力がなくなるとの規定はなく、使用貸借は終了しないとも解釈できる。
 なお、相続人の間で遺産分割協議により、自宅土地建物が、同居していた相続人以外の相続人が承継した場合、遺言で同居者以外の相続人が指定されその者が所有権を取得すれば、同居の相続人は居住する権利はなくなる。しかしながら、遺産の帰属が調わない、つまり遺産分割協議中においては、被相続人と同居相続人との間で、引続き同居の相続人に無償で使用させる旨の合意があったものと推認される。最近の最高裁判例において「建物が同居の相続人の居住の場であり、その居住は被相続人の承諾があって同居していたとみられる。したがって、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえる」として同居相続人の使用貸借を引き続き認めたもの(【参照判例】参照)がある。
について
 同居の相続人である弟の法定相続分は、3分の1である。共有状態となっているが、弟は、建物全部を占有・使用している。共有物の使用範囲は、共有持分に応じた使用ができる(同法第249条)とされているため、自己の持分相当を超えた建物全部を使用している弟は、他の持分権者に超えた分の利益を返還する義務がある(同法第703条)と長男らは主張しているものである。しかし、不当利得の返還義務は、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け…」とされており、裁判例の通り、同居相続人である弟が得る利益は、使用貸借契約に基づき建物を使用しているものであり、法律上の原因があると解され、他の相続人の兄・妹の賃料相当額の返還請求は認められない。遺産分割が確定するまでは、弟の使用収益は不当利得には該当しないのである。

参照条文

 民法第249条(共有物の使用)
   各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
 民法第593条(使用貸借)
   使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
 民法第597条(期間満了等による使用貸借の終了)
  ・② (略)
   使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
 民法第703条(不当利得の返還義務)
   法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
 民法第898条(共同相続の効力)
   相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
 民法第899条(共同相続の効力)
   各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

参照判例

 最高裁平成8年12月17日 判時1589号45頁(要旨)
 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情がない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。

監修者のコメント

 相談のケースは、回答掲記の最高裁判例と類似の事案であるが、長男と妹の要求は、正義に反する不当なものと言わざるを得ない。最高裁の論理も社会的正義の思想を基に、一般の社会常識に沿った結論を示したものと思われる。本件相談のケースでも、回答及び最高裁の言う法的構成で、弟家族は、遺産分割協議が成立するまで、堂々と父の建物を占有使用できる。

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