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2010-R-0223
借上げ社宅の入居者が自然死した場合、賃借人である会社の損害賠償責任が生じるか。

 当社の媒介で法人契約した借上げ社宅に入居していた従業員が脳卒中により死亡した。賃貸人は、賃借人に対して、賃借人の履行補助者である従業員に過失があるとして損害賠償請求を考えている。

事実関係

 当社は、不動産の賃貸借の媒介業者である。3年前に法人が賃借人である借上げ社宅としてマンションの1室を賃貸借契約をした。入居者は、賃借した法人の従業員で、当地には単身赴任であった。賃借人である法人の担当者が、入居者である従業員が勤務先に2日前から出勤しないことに不審を抱き、マンションの管理組合を通じて借上げしている居室に入ったところ、入居者が部屋で倒れているのを発見、病院に搬送されたが、死亡が確認された。検視によると、自殺や事件性はなく、脳卒中による死亡で、推定死亡時期は、2日前と判明した。入居者は、死亡前までは、健康状態に不安もなく、法人の定期健康診断でも死につながる診断結果もなかった。賃借人は、入居者の死亡により、入居者の家族とともに室内の荷物を搬出し、賃貸借契約を解除した。
 マンションの所有者である賃貸人は、今後、賃料を下げざるを得ないのではないか、そもそも入居者が敬遠するのではないかと、室内で入居者が死亡したことが賃貸募集に影響するのではないかと心配している。また、売却する場合は、相場より低い金額になるのではないかと憂慮している。

質 問

1.  賃借人の従業員は、賃貸借契約における賃借人の履行補助者としての過失があり、賃貸人は、賃借人に対して、債務不履行または不法行為責任を問うことができるか。
2.  入居者の死亡により、建物の価値が減額したときは、賃貸人は、賃借人に損害賠償を請求できるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 死亡した状況によっては債務不履行または不法行為責任を問うことができる場合があるが、自然死では責任を問うことは難しい。
 質問2.について ― 入居者又は賃借人に、過失や落度も認められない限り、建物価値の減額の損害賠償はできないであろう。
2.  理 由
⑵について
 建物賃貸借で、賃借人またはその家族や従業員である入居者の死亡が自然死ではなく自殺であった場合は、賃借人の善管注意義務の不履行に該当し、債務不履行に基づき、賃借人は、居室の原状回復費用や減額賃料の逸失利益の損害賠償責任を負う(民法第415条)ことがある(東京地裁平成22年9月2日判決)。また、入居者が病気を原因に孤独死し、無断欠勤を看過したことにより、死亡から相当の期間が経過して発見された場合に居室に傷みや臭い等が残ったり、緊急を要する治療を施す病状であるのに放置していたような場合には、賃借人やその相続人に債務不履行または不法行為(同法第709条)により損害賠償責任が生じることがある。しかし、賃借人や入居者の過失等が明らかであるケースを除いては、賃借人の用法違反や善管注意義務違反等による債務不履行または不法行為の責任を問うことはできないとされている。病死や老衰かの原因はともかく、人の死は起こり得ることであり、ましてや、自然死の責任を問うことは不合理である。裁判例でも、「突然に心筋梗塞が発症して死亡したり、あるいは、自宅療養中に死に至ることなどは、そこが借家であるとしても、人間の生活の本拠である以上、そのような死が発生し得ることは、当然に予想されるところである。したがって、老衰や病気等による借家での自然死について、当然に借家人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできないというべき」とし、「入居者が本件建物内で死亡したことによる建物価額の減少を検討する実益は認められない」と損害賠償責任を否定しているものがある(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   (略)
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

参照判例

 東京地裁平成19年3月9日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 そもそも住居内において人が重篤な病気に罹患して死亡したり、ガス中毒などの事故で死亡したりすることは、経験則上、ある程度の割合で発生しうることである。そして、失火やガス器具の整備に落度がある等の場合には、居住者に責任があるといえるとしても、本件のように、突然に心筋梗塞が発症して死亡したり、あるいは、自宅療養中に死に至ることなどは、そこが借家であるとしても、人間の生活の本拠である以上、そのような死が発生し得ることは、当然に予想されるところである。したがって、老衰や病気等による借家での自然死について、当然に借家人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできないというべきである。
(中略)既に認定したように、入居者が本件建物内で死亡したことについては、入居者にも賃借人にも、何らの過失や落度も認められないから、仮に、本件建物内において入居者が死亡したことにより、事実上本件建物の価値が減価したとしても、賃借人に対し、損害賠償を請求することはできない。よって、本件において、入居者が本件建物内で死亡したことによる建物価額の減少を検討する実益は認められない。

監修者のコメント

 生きている人間は、いつかは必ず死ぬ。そして、ほとんどの死亡は、野外ではなく、住宅等の建物内で生ずる。したがって、建物内における死亡の事実が建物の瑕疵になるというのであれば、全国の建物は瑕疵の建物だらけになるはずである。しかし、そう考える人は極めて少ない。自然死が建物価値の減損につながらないのは、そのような社会的意識の反映と思われる。ただ、自然死でも孤独死で長期間発見されなかったことにより、建物に一定の悪影響を与えているようなケースが問題になることがあるが、これも死んだ賃借人の債務不履行を検討する余地はない。長期間発見されなかったことに、本人の善管注意義務違反すなわち過失を問うことができないからである。責任を問うことの検討対象は、長期間そのような事実を知らなかった家族・遺族に過失があったといえるかどうかである。
 また、自殺のケースは回答にもあるとおり、裁判例の傾向は、賃借人の善管注意義務違反として債務不履行を構成し、建物価値の減少あるいは以後の賃料の減少分の損害賠償責任(新たには契約不適合責任)を相続人に認めるものが多い。しかし、これも人の死生観は千差万別であり、自殺は自死であって、自然死とその死亡原因が異なるだけであって、生命の喪失という点で大して差はないという考えもないではない。自殺物件の売主の瑕疵担保責任あるいは賃貸借における賃貸人の損害額の算定に関する裁判例の結論が区々となっているのは、裁判官の死生観ないし人の死に対する感覚が影響していることは否定できない。
 しかし、法的にどうかという問題はともかく、仲介実務の観点からはたとえ自然死であっても、その事実を知った以上、重説書面に記載する必要はないが、口頭でも告げたほうが妥当である。「そのような縁起の悪い物件であれば買わなかった、借りなかった。知りながらわざと言わなかっただろう」というトラブルになることが、しばしば生ずるからである。

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