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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2008-B-0279
分譲期間中に新築建売住宅を値引き販売した場合、分譲会社の先行買主に対する損害賠償責任の有無

 当社は12区画の建売住宅を販売しているが、売れ残った区画を値引きして販売したところ、先行して購入した買主から、購入価格と値引き価格の差額が資産価値の下落であるとして損害賠償を請求されている。

事実関係

 当社は、売買の媒介を主に行っているが、年間に数戸の建売住宅の販売を行っている。1年前に、土地区画整理地を地権者から購入し、12区画の建売住宅の販売を開始したが、当初は売れ行きも好調で10区画が販売済みとなった。しかし、同業者が、土地区画整理地内や周辺で当社建売住宅と同規模の販売が相次いだため、2区画が売れ残った。販売開始の段階でこれほどの建売住宅が市場に出回ることは予測していなかった。今後も他社では建売住宅の販売計画があることが判り、当社は、販売赤字を出さない範囲で、急きょ、価格を15%程下げて販売したところ完売に至った。
 完売後、当社の販売広告により値下げ販売を知った先行購入した複数の買主が当社に対し、販売業者には値引き販売をしない信義則上の義務があり、引渡しを受けてから3か月の短期間に値引き販売したことによる資産価値下落は損害であるとして、購入価格と値引き価格の差額を要求している。

質 問

1.  不動産の販売業者は、複数区画の同規模建売住宅を同時期に販売する場合、売れ残った区画を値下げして販売することはできないのか。
2.  販売業者が、残区画を値下げして販売した場合、先行の買主に対して、価格の差額を損害賠償として支払うことになるのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 原則、販売業者は、販売価格を自由に設定することができ、残区画を値下げして販売することは可能である。
 質問2.について ― 特段の事情が認められないかぎり、販売業者に損害賠償責任は生じない。
2.  理 由
⑵について
 宅地や建売住宅の不動産分譲業者は、早い時期の完売を目指すが、市況や市場の変化、競合物件の出現等により販売価格の見直しを迫られる場合がある。販売が長引くと広告費や従業員費用やモデルルーム費用、借入金利子等の販売経費が嵩むことが懸念され、早期完売の手段として残区画の物件価格を値下げして販売することがある。
 建売住宅等の販売は売主である事業者がその不動産という財産を処分する行為であり、販売価格は売主が自由に設定することができる。また、売れ残った物件を値引いて販売する際、その価格をどのように設定するかも自由である。裁判例では、「不動産業者が同種同等の建売住宅を一斉に販売する場合であっても、そのことから直ちに、売主に、これを同等の価格で販売し続けなければならない義務が買主との関係で生じると解することはできない」と、売主が買主に対し信義則上の価格維持義務を負うことを否定しているものがある。残余物件を値引き販売することに関し、「建売住宅について、売主が、その売れ行き、市況の変化、売れ残りが生じて事業資金の返済が遅れることにより発生する金利負担その他の採算等を考慮して、販売価格を当初のそれより値下げして販売することも、売主が経済的な必要性に基づいて行う合理的な財産の処分行為」であるとしている。また、不動産業者が売買価格として提示している価格で買主が購入するか否かの決定に際し、価格の判断の妥当性について、「売買価格が不動産市況の相場等に照らし適正なものかどうかは、第一次的には、売買により代金支払義務を負うこととなる買主が自ら、その判断資料となるべき事情を調査収集して確認すべきこと」と購入判断は買主に求められているとしている(【参照判例①】参照)。
 しかしながら、「①引下後の価格が市況の相場に照らし著しく低廉なものであり、これによって先に販売された同種同等の建売住宅の資産価値が市況の相場よりも大きく引き下げられたと認められる場合や、②売買の目的物と同種同等の物件が今後も売買代金額と同等の価格で販売され続けるであろうとの期待を買主が抱いても無理はないといえるような言動が、売買交渉の過程で売主側に存在したと認められる場合などのように、特段の事情が認められる場合には、売主の販売価格引下行為が信義則に違反する行為(民法第1条第2項)として買主に対する不法行為を構成する(同法第709条)と解する余地がある」と値下げ幅が市況相場より大きく乖離していたり、先行買主に値下をしないとの期待を抱かせたときは、不法行為になる場合があるとしている(【参照判例①】参照)。実際に、売れ残った新築分譲マンションを4年後に当初の分譲価格を46%下回り、かつ市場価格を10%下回る廉価で販売した分譲業者に、経済的損害の発生は認めなかったが、著しく不適正な価格で販売したことは信義則上の義務違反の不法行為を認めて慰謝料の支払を命じた裁判例(大阪高裁平成19年4月13日)がある。
 なお、宅建業者間の取引において、前記同様に先行して値引きなしで購入した業者が、所有資産の価値を下げられて損失を被ると主張し、分譲業者は値引き販売をしない信義則上の義務があると訴えた裁判で、「物件が売れ残るという需要の減少に伴い、価格を低下せしめてこれを販売することは、分譲業者の当然の行動で、分譲業者から本件建物部分を先行して購入していた買主としても、本件建物の他の部分が売れ残るという事態になれば、分譲業者がその価格を下げることは当然に予測できた」として、「不動産業者としての買主が不動産市況に対して見込み違いをしたにすぎず、その損失を他に転嫁することはできない筋合いのもの」と厳しい判断を示したものがある。(【参照判例②】参照)。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
   (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 同法第555条(売買)
   売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

参照判例①

 東京地裁平成21年11月26日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 建売住宅の販売行為は、売主がその財産を処分する行為であり、その販売価格の設定は、本来、売主が自由に行い得るものである。本件物件群のように市場性のある建売住宅について、売主が、その売れ行き、市況の変化、売れ残りが生じて事業資金の返済が遅れることにより発生する金利負担その他の採算等を考慮して、販売価格を当初のそれより値下げして販売することも、売主が経済的な必要性に基づいて行う合理的な財産の処分行為であり、原則として、売主が自由に行うことのできるものというべきである。不動産業者が同種同等の建売住宅を一斉に販売する場合であっても、そのことから直ちに、売主に、これを同等の価格で販売し続けなければならない義務が買主との関係で生じると解することはできない。
 買主は、本件物件群のような建売住宅の購入者が、売買の目的物と同種同等の物件につき今後も購入価格と同一の価格が維持されて販売されるとの期待を抱き、売主たる不動産業者が、購入者の上記期待を認識し又は容易に認識し得た場合には、当該不動産業者は、同種同等の物件の販売を行うに当たり可能な限り上記購入価格と同一の価格を維持すべき信義則上の義務を購入者に対して負うと主張するが、売買の目的物が本件物件群のような同種同等の建売住宅であることや、売主が不動産業者であるという理由だけで、売主が買主に対し上記のような信義則上の価格維持義務を負うと解することはできない。
 もっとも、本件物件群のような同種同等の建売住宅の一斉販売において、①引下後の価格が市況の相場に照らし著しく低廉なものであり、これによって先に販売された同種同等の建売住宅の資産価値が市況の相場よりも大きく引き下げられたと認められる場合や、②売買の目的物と同種同等の物件が今後も売買代金額と同等の価格で販売され続けるであろうとの期待を買主が抱いても無理はないといえるような言動が、売買交渉の過程で売主側に存在したと認められる場合などのように、特段の事情が認められる場合には、売主の販売価格引下行為が信義則に違反する行為として買主に対する不法行為を構成すると解する余地がある。(中略)
 本件販売未了物件群の販売価格が短期間のうちに大幅に値下げされることはないとの期待を抱いたとしても、そのような認識や、期待は、合理性のあるものとはいえず、法的な保護に値するような正当な信頼とはいえない。
 また、本件土地建物の売買価格が不動産市況の相場等に照らし適正なものかどうかは、第一次的には、売買により代金支払義務を負うこととなる買主が自ら、その判断資料となるべき事情を調査収集して確認すべきことであって、販売業者が売買交渉の際に上記事情に関して積極的に虚偽の内容の説明をしたなどの事実があれば格別、そのような事実がなく、また、買主からの質問等もないにもかかわらず、上記事情を買主に積極的に説明しなかったことが、売主の信義則上の説明義務違反となり不法行為を構成するとまで解することもできない。

参照判例②

 東京地裁平成5年4月26日 判タ827号191頁(要旨)
 買主は、分譲業者が売れ残った同一建物内の同種、同等の他の物件を値下げして販売した場合に値引なしに購入した買受人が所有資産の価値を下げられて損失を被ると主張し、これを基礎として分譲業者には値引販売をしない信義則上の義務があると主張するが、物件の価格というものは、需要と供給の関係から決定されるものであるから、物件が売れ残るという需要の減少に伴い、価格を低下せしめてこれを販売することは、分譲業者の当然の行動で、分譲業者から本件建物部分を先行して購入していた買主としても、本件建物の他の部分が売れ残るという事態になれば、分譲業者がその価格を下げることは当然に予測できたというべきでものであって、分譲業者に買主の主張するような信義則上の義務があるとは到底いえない。買主の本件建物部分の購入後にその価格が下がったとしても、それは不動産市況の変化によるものであり、それにより不動産売買及び不動産取引の仲介を業とする会社である買主が損失を被ったとしても、それは買主代表者自身認めるとおり、不動産業者としての買主が不動産市況に対して見込み違いをしたにすぎず、その損失を他に転嫁することはできない筋合いのものと評価せざるをえない。

監修者のコメント

 参照判例②の事案は、平成2年6月に東京都の区部の新築マンションの一戸を9,300万円で購入した買主(宅建業者)が、平成5年2月に5,900万円で転売したケースであるが、買主はこのような価格の下落は、自分が購入したのち、売主が残住戸を値引き販売したためだと主張したものである。この事案もそうであるが、値引き販売をめぐっては、バブル経済の最盛期からバブルの崩壊の時期に、その紛争が続発した。これをめぐる裁判では、①先行の契約において、将来値引き販売をしないという合意の成立が認められるか②将来値引き販売をしないという信義則上の義務があるかが主な争点となるが、回答にあるとおり、いずれも否定されている。
 先に買った者は、結局高い買い物をしてしまったので、後日の値引きを知ったときの不満の心情は同情に値するところであるが、法的には已むを得ないといわざるを得ない。ただ、売主業者の営業部長やその部下たちが、「将来も値引きはしない」旨の説明をしたことについて、セールストークであり、値引きはしないとの合意ではないとした事案があるが(大阪地裁平成5年4月21日決定)、不動産価格が異常に高騰している時期のものであり、そのような説明、言辞はすべきではない。ケースによっては、そのような説明がなされたことを前提に値下げをしない信義則上の義務が肯定されることは十分あり得るからである。

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