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2008-B-0277掲載日:2020年8月
建物を無償で貸している貸主は、借主の使用目的が達せられていなくても返還を請求することができるか。
当社は媒介業者である。依頼者が土地建物の売却を予定している不動産は、依頼者の親戚に自宅を探すまでの間無償で貸しているが、長期間になっているにもかかわらず、住み換える気配がない。このままでは売却することができない。
事実関係
当社は不動産売買・賃貸の媒介業者である。不動産を相続した相続人から、相続税納税のために不動産の一部を売却したいと相談があった。売却予定の不動産は、土地と敷地上にある一戸建の建物であるが、被相続人である父親は生前に地方から当地へ移住してきた親戚家族に建物を無償で貸している。借主は、他の住居を探すまでの期間、当該住宅に住み、他の住まいを見つけ次第移ることになっていたが、建物の使用を開始してから6年経過した現在も新居に移る気配がない。貸主は、借主に対し貸している建物を売却しなければならない理由を告げて、建物の返還を求めたが、借主からは、新居を見つけるまでは住んでいたいと懇願されている。借主が住み続けていると、予定している売却に支障がある。
質 問
建物を使用貸借している借主に建物を使用する目的があり、借主の使用目的が達していない場合には、貸主は、借主に対して建物の返還請求をすることができないのか。
回 答
1. | 結 論 | |
借主の建物使用及び収益する目的が完了してなくても、使用・収益に足りる期間が経過すれば使用貸借の終了が認められ、貸主は借主に対し、建物の返還を請求することができると解されている。 | ||
2. | 理 由 | |
使用貸借は、貸主からの借用物を借主が無償で使用及び収益し、借主が使用収益した後に貸主に借用物を返還することを約束することにより、使用貸借の効力が発生する(民法第593条)。通常は、借主の使用・収益する目的があり、その目的が達せられるまでの期間、借主は無償で使用・収益することができる。使用貸借契約も契約の一類型であるが、一般的に使用貸借契約は特殊な人間関係によって成立するため、売買契約や賃貸借契約のように契約書等の明文化がなされない場合が多い。 そのため、借用物の返還時期や使用貸借の終了を巡り、貸主と借主との間でしばしば揉めることがある。当事者間で使用貸借期間を約したときは、定めた時期に借主は貸主に返還する。返還の時期を定めなかったときは、借主の使用目的に従った使用・収益が終わったときには、返還しなければならない。使用貸借は、借主の死亡によって終了する(同法第597条第3項)。なお、貸主、借主間で借用物の返還時期を定めず、使用・収益の目的を定めなかった場合は、貸主はいつでも借主に対して返還の請求ができる(同法第598条第2項)。 相談のケースのように、借主は新居が見つかるまで借用するという使用目的が明確に約されているが、返還時期を定めなかった場合、借用期間が長期になったものの、借主の使用目的が達成されていないときは、貸主は返還を請求することができないのであろうか。民法では、返還時期を定めなかった場合でも、使用・収益目的が定められていたときは、借用物の返還時期を、借主の使用及び収益が終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる(同法第598条第1項)とし、借主の使用目的に到っていない場合でも、相当の期間が経過していれば、返還請求ができるとしている。裁判例では、「『使用、収益の目的』は、当事者の意思解釈上、適当な家屋を見付けるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められるから、適当な家屋を見付けるに必要と思われる期間を経過した場合には、たとえ現実に見付かる以前でも民法第598条第1項により貸主において告知し得べきものと解するべきである(【参照判例】参照)」と、6年半の使用貸借期間で使用目的は達していないが、相当の期間経過があると貸主の建物返還請求を容認したものがある。 媒介業者が、貸主から不動産の使用貸借についての助言を求められたときは、当事者が使用貸借する事情を勘案し、借主の使用・収益する目的を明確にしたうえで、目的が達成可能な期間(または使用貸借契約の終了期日)を明確に設定することを薦めるべきであろう。 |
参照条文
○ | 民法第593条(使用貸借) | |
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。 | ||
○ | 同法第597条(期間満了等による使用貸借の終了) | |
① | 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。 | |
② | 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。 | |
③ | 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。 | |
○ | 同法第598条(使用貸借の解除) | |
① | 貸主は、前条第二項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。 | |
② | 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。 | |
③ | 借主は、いつでも契約の解除をすることができる。 |
参照判例
○ | 最高裁昭和34年8月18日(要旨) | ||
借主は所有家屋の焼失により住宅に窮し、貸主から本件建物を「他に適当な家屋に移るまで暫くの間」住居として使用するため無償で借受けたと認定した趣旨なることが明らかである。従って、本件使用貸借については、返還の時期の定めはないけれども、使用、収益の目的が定められているものと解すべきである。そして、その「使用、収益の目的」は、当事者の意思解釈上、適当な家屋を見付けるまでの一時的住居として使用収益するということであると認められるから、適当な家屋を見付けるに必要と思われる期間を経過した場合には、たとえ現実に見付かる以前でも民法第597条第2項但書(※現第598条第1項)により貸主において告知し得べきものと解するべきである。 |
監修者のコメント
相談ケースにおける親戚家族は、仮住まいの目的であるから、すでに6年も経過しているので、民法第598条第1項の「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき」に当たり、回答のとおり、直ちに明渡しの請求ができると解される。
このような場合に注意しなければならないことは、その使用者が「タダでは申し訳ないので、お金を払いたい」という申し出をして来たのを受けて、いくらかの金銭を受け取ることをしてはならない。使用の対価を受領すれば賃貸借であり、借地借家法の適用を受けることになってしまう。このような者が借家権があると開き直ることができるかの問題はあるが、少なくとも当該建物を売却したいということが、当然解約申し入れの「正当の理由」にはならないので、大変面倒なことになってしまうからである。