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1912-R-0212
土地の賃貸人は、賃借人が賃貸借契約の用法目的と異なる使用をしている場合、契約解除することができるか。

 当社で、居住用建物の所有目的の土地の賃貸借契約の媒介をしたが、賃借人は、契約締結後の8年間、建物を建築しないで家族の駐車場として使用している。賃貸人は、街並みを維持するためにも、賃借人に住宅を建ててほしいと希望しているが、建築しないときは、用法違反を理由として契約解除を請求するつもりでいる。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。8年前に当社の媒介で土地賃貸借契約をした賃貸人から相談されている。賃貸人は、古くからの地主で、土地や店舗、アパート等の賃貸経営をしている。所有している土地は広く、土地を効率的に賃貸するために、住宅用借地地域、店舗用借地地域、アパート地域と用途別に区画して賃貸している。その中の居住用区画の土地で建物を建築する目的で期間30年の土地賃貸借契約を締結した賃借人が、未だに住宅を建築しないで、駐車場として使用している。
 賃貸人は、当社に相談するまで、ことさら賃借人に対して住宅を建築するよう催促はしていなかった。当社は、近隣の賃貸住宅に居住している土地賃借人に理由を聞くと、何度か住宅建築の計画はあったが、希望する住宅について、工務店と意見が折り合わなかったり、予算面のオーバー等で建築に到らなかったようである。賃借人は、住宅を建てる計画はまだ持ち続けているが、賃借している土地は、家族の複数台の駐車場として利用している。
 賃貸人は、居住用区画の他の敷地にはそれぞれ住宅が建っており、この1区画のみ駐車場になっているので住宅地の区画としての街並みの景観を損ねていると感じている。

質 問

 建物所有を目的とする土地賃貸借契約で、賃借人が契約締結以来建物を建築しないで、駐車場として使用している場合、賃貸人は、用法違反を理由として契約の解除をすることができるか。

回 答

1.  結 論
 賃借人が合意された契約上の債務である建物建築をせず、駐車場に使用していることは用法違反に該当するが、契約締結から一定期間内での建物建築を特に約していなければ、他の違反行為がない限り、賃貸人から契約解除をすることはできない。
2.  理 由
 賃貸借契約において、賃借人は、賃貸人との間の契約又は賃借物に適した用法に従って使用しなければならない(民法第594条、第616条)。賃貸借契約において、賃借人が用法に従って使用収益しなければならないのは、賃料支払と同様に賃借人の重要な義務である。基本的に、賃借人に契約違反があれば債務不履行となり、契約解除されることがある(同法第541条)が、契約違反だからといって無条件に解除原因となるわけではない。賃貸人と賃借人との間の賃貸借関係は長期にわたるのが一般的であり、当事者間の信頼関係が賃貸借関係の基礎となるとされている。信頼関係の破壊が認められれば、契約解除は可能であるが、用法違反の事実があっても信頼関係の破壊が認められず、また、そのおそれも認めるに足りない状況であれば、賃貸人からの契約解除はできないと解されている。
 土地の賃貸借契約では、土地の賃借人が何の目的で、どのように使用するのかについては、財産を他人に賃貸する賃貸人にとっては重大な関心事である。賃借人との間で約した用法に従わない使用や用法を超える使用を賃借人がした場合、賃貸人は契約の解除ができる約定をするのが一般的である。用法に違反する土地の使用には、居住用建物建築の使用目的にもかかわらず、店舗や事務所等の事業用建物を建築したり、あるいは建物を建築せずに駐車場として第三者に賃貸したり、資材置き場として賃借したが建物を建てたりする等、明らかに用法違反となるものがある。この場合、契約が解除ができる可能性が高い。
 相談ケースのように居住用建物の所有目的で土地の賃貸借契約を締結したが、契約締結後から長期間、賃借人が建物を建築しないで家族用の駐車場として使用していた場合に、賃貸人からの契約解除が認められるか否かである。同様のケースの裁判例で、「契約締結後、一定期間内に建物を建築することを特に約しておらず、賃借人は当然に賃貸借契約上の債務として相当期間内に建物を建築すべき義務を負わない」ことを前提として、「賃借人が土地を駐車場として使用する行為は、自己使用のためのものであるとしても、賃貸借契約により定められた用法に違反する」と違反が認められるとしながらも、「整地した以外には、何ら土地に変更を加えることなく、その整地済みの状態のままで駐車場として使用」しており、「賃貸人は、賃借人が駐車場と使用していることを認識しながら、賃借人に対して何ら異議等を述べたことがない」、等により、信頼関係の破壊は認められず、賃貸人の請求した契約解除が、用法違反のみを理由としての解除は認めなかったものがある(【参照判例】参照)。
 賃借人の用法違反があっても、実際に賃貸人の利益を害する事象がある場合やそのおそれのあることが認められれば契約解除原因となるが、賃貸人、賃借人間の信頼関係の破壊と認めるに足りる特段の事情が存在するか否かで判断されることになる。

参照条文

 民法第541条(履行遅滞等による解除権)
   当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
 同法第594条(借主による使用及び収益)
   借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
   (略)
   借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
 民法第616条(使用貸借の規定の準用)
   第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。

参照判例

 東京地裁平成4年7月16日 判時1459号133頁(要旨)
 一般に土地賃貸借契約が建物所有を目的するものであっても、賃借人が賃貸人に対し契約締結以降の一定期間内に建物を建築することを特に約する場合のほか賃貸人が賃借人の建築する建物につき一定の時期までに財産上の権利を取得し又は義務を負担することが当事者間で合意されている等の特段の事情がある場合を別にすれば、賃借人において、当然にその賃貸借契約上の債務として相当期間内に建物を建築すべき義務を負うものと解することはできない。
(中略)賃貸人、賃借人間で、建物所有を目的とすることが合意されているから、本件賃貸借契約上、賃借人が本件土地を建物所有というその合意された目的以外の用途に使用しないという消極的な内容の債務を負担するものと解することができ、そうであるとすれば、本件土地を駐車場として使用する賃借人に右行為は、仮にそれが自己使用のためのものであるとしても、本件賃貸借契約により定められた用法にその限りにおいて違反するものといわざるを得ない。
 しかしながら、賃借人は、本件土地を整地した以外には、何ら本件土地に変更を加えることなく、その整地済みの状態のままで駐車場として使用しているものであること及び賃貸人は、賃借人が本件土地を駐車場と使用していることを認識しながら、本件賃貸借契約解除の意思表示をするまでの間、賃借人に対して何ら異議等を述べたことがないことの右各事実によれば、賃借人に右に指摘したような消極的な意味合いにおける用法違反の事実があっても、本件では、いまだ賃貸人、賃借人間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情が存在するものというべきであり、したがって、賃借人の右のような用法違反のみを理由としては、賃貸人が直ちには本件賃貸借契約を解除することはできないものといわなければならない。

監修者のコメント

 相談のケースも、参照判例の事例と同様、駐車場として第三者に賃貸しているわけでもなく、ただ家族の駐車場としているだけであり、回答及び判例の言うように用法違反と言えても、契約の解除はできないと考えるのが妥当であろう。もっとも、その理由として、賃貸借契約における確立した理論である「信頼関係の破壊」は未だない、ということが最も説得力があるが、相談ケースは貸してから8年間も放置していたのであるから、駐車場としての利用を黙示で承認していたとみることもできると思われる。その観点からすれば、解除権の行使は権利の濫用と構成することが可能である。

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