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1904-R-0201
オーナーチェンジ後の、賃貸借契約における賃借人の負担した有益費の償還義務者

 当社は商業ビルの売買の媒介をしたが、買主がビルの引渡しを受けた後に店舗の賃借人が退去する予定である。賃借人は、入居後に賃借人の負担で一部の設備を取換えたが、その費用は旧賃貸人または新賃貸人のどちらに請求するのか。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。3階建ての商業ビルの所有者からビルの売却の依頼を受けている。ビルは建築後15年を経過しているが、1階は飲食店、2階と3階は事務所として賃貸している。ビルの立地は駅から近く、繁華街の中心的な場所である。賃貸人が希望している売買価額は妥当なもので、販売活動をすれば早期に成約が見込めると当社は考えている。賃貸人にビルのテナントの状況について確認したところ、事務所は賃貸借期間も残っており引渡し後も当分の間継続して使用するが、飲食店は規模拡大のために賃貸借期間満了の6か月後に退去予定である。飲食店が使用している店舗はビルの新築当時から日本料理の飲食店が入居している。現在の飲食店は、5年前に店舗に入居し、前賃借人と同様に日本料理店として契約したが、その際に、店舗内の一枚板の白木のカウンターの傷みが酷く、そのままでは使用できないため、入居時に現賃借人の負担でカウンターを取り換えた。
 賃貸借契約では、賃借人の修繕費等の負担についての約定はしていないが、賃借人は、賃貸人に対して、賃借人が店舗を退去する際に賃借人が負担したカウンター取換費用の支払を要求することが予想される。

質 問

1.  賃借人は、賃貸人に対して、カウンターの取換費用を請求することができるか。
2.  費用を請求することができるとした場合、賃借人が店舗を退去するときに賃貸人が代わっていた場合、費用の償還請求は新旧どちらの賃貸人にするのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃借人は、カウンターの取換費用を有益費として賃貸人に対して償還を請求することができると解される。
 質問2.について ― 有益費の償還請求の時期は、原則として、賃貸借の終了のときであり、賃借人の退去時に賃貸人が交替しているときは、新賃貸人に償還義務があると解されており、新賃貸人に対して請求することになる。
2.  理 由
⑵について
 建物の賃貸借契約において、賃借人が賃借している建物の修理をしたり、設備等を設置する場合がある。賃貸人は建物を賃貸する場合、賃借人が使用収益できるように修繕する義務がある(民法第606条第1項)。一般消費者が賃借人となる居住用建物では小修繕については特約で賃借人の負担にすることが可能とされているが、大修繕は、原則として、賃貸人の負担であり、特約を付しても消費者契約法上、賃借人に不利な特約は無効となる。事業用建物については賃借人の用途により大修繕や改修、設備の設置等の費用を賃借人の負担とする約定をすることができる。
 また、賃借人が賃借建物を目的に従った使用収益する上で、賃借人が賃借建物の改修等をするために費用を支出する場合があるが、必要費と有益費に分類される。必要費は、建物の現状を維持・保存をする等、賃借人の契約目的に従った使用収益をするために必要な費用である。電気・ガス・水道の修理や雨漏りの補修、ベランダの手すり等の破損の修理等が該当する。必要費は本来賃貸人の負担であり、必要費を賃借人が負担したときは、賃借人は賃貸人に対して、直ちにその費用の償還を請求することができる(同法第196条第1項、同法第608条第1項)。
 有益費は、賃借人が、賃借建物の価値を増加させるために支出した費用で、価値の増加の有無は客観的にみて価値が増加したといえることが必要である。有益費といえるものには、居住用建物では、温水式トイレ便座への変更、汲み取り式トイレから公共下水道への接続工事(水洗への変更)等が該当し、事業用建物では外壁の張替え、床板のフローリング化(張替え)、店舗入り口の改装、流し台の改良等による価値が増加をした場合の費用が該当する。有益費償還の請求ができる時期は賃借人の契約終了時であり、契約終了時に価格(価値)の増加が現存している場合に限られる。そして、賃貸人が償還する金額は、賃借人が支出した金額または増価額であり、どちらの額を償還するかは賃貸人の選択に委ねられている(同法第196条第2項、同法第608条第2項)。
 賃貸借契約において賃借人の支出する費用については、有益費に似たものとして、賃借人の賃貸人に対する造作買取請求権がある。造作とは、畳・襖等の建具、水道設備や空調設備等の建物から独立した取り外し可能のものを指し、有益費は、前記のように建物と一体化したもので、その違いがある。造作買取請求権は、賃借建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した造作がある場合に、その造作を時価で賃貸人が買い取ることを請求することができるものである(借地借家法第33条)。造作を設置するには、予め賃貸人の同意が必要であるが、有益費を支出することについての賃貸人の同意は要件とされていない。賃貸人の同意がなくても、賃借建物の価値が増加していれば、賃借人は賃貸人に対して有益費の償還を請求することができる。法理上、有益費償還請求権は、賃借人が契約終了時に賃借建物の返還をする場合に賃貸人の建物上に賃借人が支出した改良費の価値が残存していることに鑑み、賃借人の賃貸人に対する不当利得返還請求に由来している。
 相談ケースのカウンターの取換え費用については、賃借人の使用目的である店舗に必須のものであり、傷んでいたものを取り換えたことにより、賃借人の契約終了時にも価値は現存していることが窺われ、有益費の請求は可能と解される(【参照判例①】参照)。また、賃貸人が交替していた場合、賃借人の賃貸人に対する償還請求は契約終了時とされていることから、契約終了時の賃貸人が新賃貸人であれば、新賃貸人に費用の償還義務がある(【参照判例②】参照)。
 なお、事業用の建物賃貸借契約において、賃借人が有益費の償還請求権をあらかじめ放棄する旨の特約は、契約自由の原則により有効と解されている(東京地裁昭和46年12月23日)。

参照条文

 民法第601条(賃貸借)
 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第606条(賃貸物の修繕等)
   賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
   (略)
 同法第196条(占有者による費用の償還請求)
   占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
   占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
 同法第608条(賃借人による費用の償還請求)
   賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
   賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
 借地借家法第33条(造作買取請求権)
   建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
   (略)

参照判例①

 最高裁昭和46年3月31日 判時637号47頁(要旨)
 カウンター等の工事は、事実に照らしても明らかな如く、本件店舗賃貸借における明示の目的である料理店営業に必要なる工事であるから、これについては、その工事の際、わざわざ賃貸人の承諾を求めるまでもなく、右賃貸借契約締結にあたって、当然賃貸人において了承しているところのものと解すべく、賃借人と賃貸人間にその存在を認めうる賃貸人主張の如き本件店舗賃貸借契約書第四条記載の約定(造作工事に関し、賃貸人の文書に基づく承諾を要する旨の定め)は、右契約目的を達するために必要な工事をその対象とするものではないと解すべきである。

参照判例②

 最高裁昭和46年2月19日 判タ260号207頁(要旨)
 建物の賃借人または占有者が、原則として、賃貸借の終了の時または占有物を返還する時に、賃貸人または占有回復者に対し自己の支出した有益費につき償還を請求しうることは、民法第608条第2項、同法第196条第2項の定めるところであるが、後、賃貸人が有益費支出交替したときは、特段の事情のないかぎり、新賃貸人において旧賃貸人の権利義務一切を承継し、新賃貸人は右償還義務者たる地位をも承継するものであって、そこにいう賃貸人とは賃貸借終了時の賃貸人を指し、民法第196条第2項にいう回復者とは占有の回復当時の回復者を指すものと解する。

監修者のコメント

 賃借人からのカウンター取換え費用の請求の可否及びその負担者については、回答のとおりで、付け加えるべきことも全くないが、賃借人からの請求額の算定はなかなか難しい。なぜなら、有益費は「賃借人の支出した金額」か「増価額」で、実際上は、低い「増価額」となり、取換え工事費用は人件費や手間賃なども含まれ、それ自体は請求根拠とはならず、カウンターの板自体の値段も、賃貸借終了時における建物価値の増加とイコールではないからである。
 また、このような事実がもともと分かっている場合には、ビルの売買の際に取り決めておくことが望ましい。法理論的には、賃貸借終了時の賃貸人の負担であるが、買主からみれば、分かっていたのにひと言も売主が言わなかったとして、トラブルになる可能性があるからである。

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