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1812-R-0197
共有物の賃貸借契約において共有者の1人が単独での契約解除ができるか

 当社は賃貸の管理業者である。相続した賃貸物件の賃借人が滞納し、相続人である共有者の一方は契約解除を望んでいるが、他方は継続の意向である。

事実関係

 当社は賃貸の媒介兼管理業者である。5年前に賃貸借契約の媒介をした賃貸マンションを管理している。3年前に契約したときの賃貸人である父親が半年前に亡くなり、当該物件は相続人である兄弟2人が相続した。持分は兄が3分の2、弟が3分の2である。父親が亡くなる頃から賃借人の賃料支払いが遅れがちになり、現在4か月分の賃料が滞っている。兄は、賃借人に対し賃料支払の督促をしたが延滞が続いている。兄は、賃貸借契約の解除をしたいと考えているが、弟は、継続して賃料支払の督促をし、様子を見たい意向である。

質 問

 賃貸しているマンションを、共有者である兄が単独で賃借人との賃貸借契約を解除することができるか。

回 答

1.  結 論
 共有物の賃貸借契約の解除は共有物の管理に該当し、共有持分の過半数をもって決することができ、兄の共有持分は過半数を超えており、単独で契約解除することができる。
2.  理 由
 民法は、契約解除について、当事者の一方が数人ある場合には、その全員から又は全員に対してのみすることができると規定されている(民法第544条・解除権の不可分性)。複数の共有者が所有する不動産を契約した後、契約解除するには、共有者全員がしなければならない。売買契約では、民法原則が適用され、売主又は買主が複数の場合、共有者全員でなければ契約解除することができない。共有者の一部に契約解除を認めると、他の共有者は契約が解除されたことを知り得なかったり、一部の共有者は契約が消滅するなど、契約が不安定な状態に陥ることになる。契約当事者全員が共同で解除しなければならない関係を解除権の不可分性という。
 しかしながら、賃貸借契約の解除については、共有物の売買契約の解除とは異なり、共有物の管理行為と解されている。契約の解除権の不可分性は適用されず、さらに、各共有者が、単独ですることができる保存行為(同法第252条但書)にも該当せず、管理行為(同法第252条)と解され、共有持分の過半数で行うことができるとされている(【参照判例】参照)。相談ケースでは、共有者である兄の持分は3分の2あり、過半数を超えており、管理行為として単独で契約解除をすることが可能である。

参照条文

 民法第252条(共有物の管理)
 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
 同法第544条(解除権の不可分性)
 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。

参照判例

 最高裁昭和39年2月25日 判タ160号75頁(要旨)
 共有者が共有物を目的とする賃貸借契約を解除することは民法第252条にいう「共有物の管理に関する事項」に該当し、右貸借契約の解除については同法第544条第1項の規定の適用が排除される解すべきことは所論のとおりである。-(中略)-共有物を目的とする貸借契約の解除は同法第252条但書にいう保存行為にあたらず、同条本文の適用を受ける管理行為とするのが相当である。

監修者のコメント

 賃貸借契約の解除は、共有物の管理行為に該当し、共有持分の過半数で決定するというのが最高裁の判断であるので、回答のとおり兄1人の意思で解除できる。ただ、滞納の見通し等を勘案しながら、できるだけ話合いによって結論を出すことをアドバイスすることが適切である。
 解除と異なり、賃貸借の新たな締結も管理行為として持分の過半数でできるのか否かは、最高裁の判断はなく、過半数でよいという考え方が有力であるが、処分行為として共有者全員の合意が必要という考え方もある。いずれにせよ新たな賃貸借契約書の貸主欄には、兄弟2人の署名押印をするのが適切であるので、解除についてもできる限り話合いで意思統一をしたほうがよい。

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