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1810-R-0195掲載日:2018年10月
賃借権の相続と契約解除できる当事者
当社は賃貸の媒介業者である。店舗を賃借して営業していた賃借人が死亡した。賃借人の相続人の1人が店舗を継いで営業して賃料を支払っていたが、最近賃料を滞納しているため契約解除を申し入れるが、相続人は他にもいる。解除の申し入れは相続人全員にしなければいけないか。店舗を使用していた相続人のみにすることができるか。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者である。当社が媒介した飲食店店舗の賃借人が半年前に病死した。賃借人は、店舗を賃借してから約10年経過していたが、駅近くの店舗でもあり、そこそこ繁盛していたようで賃料支払の遅れもなかった。他県の飲食店の従業員として勤めていた二男が飲食店の営業を引き継いでいる。賃貸借契約の賃借人変更等の手続はしていないが、賃料はその二男が支払っていた。しかし、亡くなった父親の評判で維持していた飲食店だったが、代が替わり、思うような売り上げが上がらないのか、賃料不払が3か月間続いている。賃貸人は、父親が亡くなって間もないので2か月間は二男に滞納賃料の支払いを督促しなかったが、3か月分が滞納となったので、二男に対して3か月分の賃料支払いを催告の上、契約解除を通知しようと考えている。なお、先代の賃借人の相続人は二男のほか長男と長女がいるが、2人も遠方に住んでいるので、賃貸人は、催告と解除の通知を店を継いでいる二男にのみにする予定である。
質 問
店舗の賃借人が死亡した後に店舗の営業を引き継いだ相続人の1人が賃料を滞納した場合、賃貸人は、催告及び解除の通知を店を引き継いだ相続人にのみすればよいか。なお、相続人は3人である。
回 答
1. | 結 論 | |
原則、賃貸借契約の解除通知は相続人全員に対してしなければ無効となる。特段の事情があれば、相続人1人に対しての通知が有効とされる場合がある。 | ||
2. | 理 由 | |
建物の賃貸借契約をしている場合、賃借人が死亡しても賃借権は、相続の対象財産であり、相続人に相続される(民法第896条)。相続人が複数いるときは、相続人全員が共同相続人となり、遺産分割協議がなされてなければ、賃借権は共有財産となる(同法第898条、第899条)。賃借権は、所有権以外の財産権として準共有財産となり、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(同法第264条、第249条)。賃借権の相続は、アパート等の居住用賃借物であっても店舗等の事業用賃借物でも、同居していた家族あるいは店舗を引き継いだ相続人だけでなく、相続人である限り、同居していない相続人や遠方にいる相続人も、相続人全員が各自の相続分に応じて承継する権利がある。 そして、準共有状態の賃借権の賃貸借契約を解除するには、賃貸人は共有者全員に対し通知しなければならず(同法第544条第1項、解除の不可分性)、相続人の1人のみにした解除は無効と解されている。催告についての規定はないが、解除の前提である催告も解除と同様に不可分性があると考えられる。 しかしながら、遺産分割協議書により、特定の相続人に賃借権についての承継が合意されているときや、協議書がなくても、特定の相続人に代理権が授与されていたり、賃借権の承継が特定の相続人に明示的あるいは黙示の合意が認められる場合は、賃貸人との契約解除は、承継した相続人のみで足りるとされる場合があると解されている。相談のように、店舗の営業を引き継いだ二男が、賃借物の使用収益を継続し、かつ賃料の支払を継続し、他の相続人が店舗の使用も賃料支払もしていなければ、賃借権の承継があった、または他の相続人からの代理権が授与されていると認められ、賃貸人は、二男に対してのみ賃料支払の催告及び契約解除の意思表示をすれば足りるとされている場合がある(【参照判例】参照)。 ただし、特段の事情の有無については事案ごとに適否が異なり、必ずしも特定の相続人に賃借権が承継されているか否かの見極めは難しいであろう。媒介業者が賃貸人から相談があったときは、相続人全員に対して催告・解除をしたほうがよいことを助言すべきであろう。 |
参照条文
○ | 民法第249条(共有物の使用) | ||
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。 | |||
○ | 同法第264条(準共有) | ||
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。 | |||
○ | 同法第544条(解除権の不可分性) | ||
① | 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第896条(相続の一般的効力) | ||
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 | |||
○ | 同法第898条(共同相続の効力) | ||
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。 | |||
○ | 同法第899条(共同相続の効力) | ||
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。 |
参照判例
○ | 大阪地裁平成4年4月22日 判タ809号175頁(要旨) | ||
契約当事者の一方が数人あって、この数人ある当事者に対して相手方が契約を解除する場合、全員に対して解除しなければならないのは民法第544条第1項に規定するとおりである。しかし、賃貸借契約において、賃借人が死亡し、数人の相続人が賃借権を相続したものの、そのうち特定の相続人のみが賃借物を使用し、かつ賃料を支払っているような場合は、他の相続人は賃貸借に係る一切の代理権を当該相続人に授与したとみて差し支えないこともあり、そのような特段の事情がある場合は、賃貸人は、当該相続人に対してのみ賃料支払いの催告や契約解除の意思表示をなせば足りるというべきである。 |
監修者のコメント
回答のとおり、遺産分割によって二男が賃借権を承継しない限り、形式的には、相続人3人が賃借権を準共有していることになるが、事実関係をみる限り、店舗を継いだ二男以外の者は、おそらく二男が賃借権を相続し、自分たちは賃借権を相続していないという認識であろう。そこで、長女と長兄にも滞納賃料の請求を試みれば、自分たちは賃借人ではないという対応をしてくると思われるので、その上で二男のみを賃借人として法的措置をとるというのも一つの方法である。