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1806-R-0190
土地賃借人が、借地上の自己所有建物を第三者に賃貸する場合、土地賃貸人である地主の承諾の要否

 建物賃貸借の媒介を依頼されている。依頼者は、借地権付建物を相続したが、当面、その建物に居住しないので賃貸する。建物を第三者に賃貸する場合、賃借人は、土地賃貸人の承諾を得る必要があるか。賃貸人に無断で、建物を賃貸したときに、土地の賃貸借契約を解除されることはないか。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。借地上の建物所有者から一戸建賃貸の相談を受けている。その建物には、最近まで相談者の母親が1人で住んでいたが、母が亡くなり、相談者である長女が相続した。長女も結婚するまでは、この建物に住んでいたが、現在、夫の転勤先である地方に家族とともに住んでいる。将来、夫の転勤で戻る可能性もあるので、建物を売却する予定はないが、空家のままでは建物も傷むので、第三者に賃貸することにしたい。建物は、建替えて10年が経過しているが、土地の賃借契約期間はまだ18年ある。

質 問

 当社は建物の相続人から、建物賃貸借の媒介を依頼されているが、借地上の建物を第三者へ賃貸することについて、土地賃貸人である地主の承諾を得る必要があるのか。また、賃貸人は、土地賃借人が建物を第三者に賃貸することを拒否することができるのか。

回 答

1.  結 論
 原則として、借地上の建物を建物所有者が第三者に賃貸することは、建物所有者の自由であり、土地賃貸人の承諾を得る必要はなく、土地賃貸人は、土地賃借人が第三者へ建物を賃貸することを拒否することはできない。
2.  理 由
 借地上の建物の賃貸は、「土地賃借人が賃借地上に建設した建物を第三者に賃貸しても、賃借人は建物所有のため自ら土地を使用しているものであり、賃借地を第三者に転貸したとは言えない。」との判例(大審院昭和8年12月11日)以降、借地人は建物を自由に第三者に貸すことができ、賃貸人は契約の解除ができないことは定説となっている(【参照判例】前段参照)。
 賃借人が地主から賃借しているのはあくまで土地であり、その土地上の建物は借地人の所有物であり、自由に使用収益することができる。借地契約は、賃借人に建物を所有させることを目的とする契約であり、借地人が所有建物を貸して収益を上げることは土地賃貸借契約の目的に反するものではなく、土地の転貸にはならない。借地上の建物は土地賃借人の所有物であり、自由に使用収益することができる。土地賃借人が、所有建物を第三者に賃貸して収益を上げることは土地賃貸借契約の目的に反するものではない。
 土地賃貸人の承諾を要し、承諾を得ない場合に、土地賃貸人が契約を解除できるのは、賃借物である土地の賃借権を第三者に譲渡又は賃貸借土地を転貸する場合であり(民法第612条)、土地賃借人が、建物を賃貸することは、土地の賃借権の譲渡又は転貸にはあたらない。土地賃借人が、第三者へ建物を賃貸することは、いわば、所有権の行使とも言え、基本原則に反しない限り、自由に使用、収益及び処分をすることができる(同法第206条)。
 土地の賃貸人は、自己の土地の上の建物を賃借する第三者が、どのような人物なのか不安を覚えたり、見ず知らずの第三者に土地を利用されるのは嫌だとしても、賃貸人は、賃借人が建物を第三者に賃貸することを、拒否したり、土地賃貸借契約を解除することはできない。
 なお、借地上の建物の賃借人は、建物使用する場合、土地賃借人が賃借している土地を土地賃貸人に無断で使用することになるが、「土地の賃借人が借地上建物を賃貸し、その敷地として土地の利用を許容する場合はこれを土地の賃貸借と目すべきでない」(上記、大審院判例)として、土地賃貸人の承諾がなくても、土地の利用ができることを認めている。借地上の建物を賃貸をすることに土地賃貸人の承諾なしに認められることから、建物賃借人が建物使用に伴う土地の利用は、土地の転貸には該当せず、当然の判断である。
 一方、土地賃貸人と賃借人との間の土地賃貸借契約において、建物賃貸禁止特約が約定されていた場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除し得るか、また、建物を賃貸する場合や賃借人が借地上の建物を賃貸するときに賃借人の承諾を得る必要があるかが問題になる。
 法律上、建物賃貸禁止特約を禁止する規定はなく、契約自由の原則からも賃貸人の解除権や同意権の約定は肯定されると解されるが、賃借人は、裁判所に借地条件の変更許可を求めることができ(借地借家法第17条第1項)、また、賃借人に不利な特約は無効となる(借地借家法第9条)ことを考えると、基本的には、土地賃借人の建物賃貸は、土地賃貸人からの契約解除は認められず、同意も不要と解されるが、賃貸禁止特約に合理的な理由がある場合は、禁止特約は有効となり、借地人が特約に違反して第三者に賃貸したときは、賃貸人は土地賃貸借契約を解除できる可能性があるので注意が必要である。
 建物賃貸禁止特約の有効性は、賃貸人及び賃借人の個別的事情によって判断される(【参照判例】後段参照)。基本的には、賃貸人に大きな不利益がなく、賃借人に利益があるときは、禁止特約の合理性は認められず、解約解除はできないと解される。
 仲介業者は、土地の賃貸借契約に建物賃貸禁止や賃貸人の事前承諾を要する等の特約があるときは、当事者間の禁止条項を合意解除するか、建物賃貸借契約前に、賃借人が賃貸人に第三者への賃貸についての同意を得るなどトラブル防止に努めることが必要であろう。

参照条文

 民法第206条(所有権の内容)
 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
 同法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 借地借家法第9条(強行規定)
 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
 同法第17条(借地条件の変更及び増改築の許可)
 建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
  〜⑥ (略)

参照判例

 浦和地裁昭和58年1月18日 判タ469号129頁(要旨)
 建物所有を目的とする土地賃貸借契約においては、借地人は一般に、借地上に自己が所有する建物を土地の賃貸人の承諾を得ないで第三者に賃貸して使用させたとしても、その故をもって借地の無断譲渡転貸として土地の賃貸人が土地賃貸借契約を解除することはできないと解される。
 しかし、借地人が借地上の自己所有建物を他に賃貸して使用させることは、建物の使用を介して間接的な形においてではあっても、建物の敷地の使用・占有を必然的に伴うものであることに鑑みると、賃貸人と賃借人の合意により、借地上の建物を他に賃貸することを特約で禁止することは、それが賃貸借期間の全部にわたるものであっても、そのような合理的客観的理由が存する場合には許されないと解するのが相当である。
 そして、調停において、右のような特約が合意されるとともに、右特約に違反した場合には土地の賃貸人において土地賃貸借契約を解除することができ、そのときは賃借人は土地を明渡さなければならないとの条項が定められても、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることに照らすと、右条項は、賃借人が土地上の建物を他に賃貸した全ての場合に当然に解除が効力を生じるものと解すべきものではなく、形式的には右特約に違反しても、賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するに至らない特別の事情のある場合には、右条項に基づく賃貸借契約の解除は効力を生じないと解すべきであるから、このような制約の存することを前提とする以上右条項を無効とすべき理由はない。

監修者のコメント

 現在の最高裁に相当する戦前の大審院の判決(回答掲記)は、その前提として、わが国の法制が、土地と建物を全く別個独立の不動産として扱っていることに由来する。すなわち、土地の賃貸借と建物の賃貸借は、別々の不動産に関するものということの思想がその基礎にある。
 しかし、借地上の建物の賃借人は、道路から建物に入るには敷地を通るであろうし(道路からジャンプして直接建物に入ることはない)、また土地上に花や木を植えるというように土地を使用することも当然のようにあり得る。判例は、それは建物の使用に付随して生ずる土地の利用であって、独立的な土地の使用とみないのである。ただ、判例は、何らの特約のない場合の論理であって、問題は借地契約において借地上の建物賃貸借について、土地賃貸人(地主)の承諾ないし同意を要するとした特約が有効か否かである。これを直接判断した最高裁判例は、まだないと思われるが、自らの貸地を現実に利用する者が、どのような人かについて地主が関心を持つことには一定の合理性があり、当該特約は権利濫用と評されるものでない限り、原則としては有効と考えられる。

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