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1806-B-0246掲載日:2018年6月
売買契約の買主が手付放棄により契約解除したときの約定報酬額の請求権
当社は売買の媒介業者であるが、マンションの契約後、買主の都合で契約を手付解除することになった。媒介業者は、売主から、約定した媒介報酬額の全額を受領することができるか。
事実関係
当社は、不動産売買の媒介業者である。1か月前にマンションの売買契約の媒介をしたが、買主は、予算的には条件に適っているが、マンションの広さが購入検討中から、2人いる子の成長を考えると、面積が手狭になるのではないかと、悩み、結果的に手付解除期日前に、購入契約を手付解除したいと申入れしてきた。
契約した売主、買主ともに当社の媒介であり、媒介報酬は、契約時に50%、残金決済日に50%の約定で、契約時に半金を受領している。買主の手付金放棄により、売主に支払われていた売買代金の20%は契約解除の金額として、売主が受領し、契約解除の覚書を交付する予定である。媒介契約は締結しており、媒介報酬の請求権は、発生していると考えている。
質 問
売買契約の媒介業者は、売買契約の買主が手付を放棄して契約解除になった場合、売主から、約定した媒介報酬の全額を受領することができるか。
回 答
1. | 結 論 | |
媒介業者は媒介報酬額を請求する権利は発生しているが、必ずしも全額を受領できるとは限らない。 | ||
2. | 理 由 | |
宅地建物取引業者は、媒介により売買契約が成立したときは、媒介報酬を請求することができるが、①依頼者と媒介業者との媒介契約の成立 ②媒介契約に基づく媒介業者の媒介行為の存在 ③媒介行為による媒介契約の目的である依頼者と相手方との売買契約の成立の3要件が揃うことにより、請求権が発生すると解されている。報酬請求権は、媒介業者の受任業務である売買契約を成立させ、契約の履行がされ、契約の目的が達成されることを前提に定められているものと解されており(【参照判例①】参照)、報酬の全額の請求権が発生する。売買契約が成立しても、契約が履行されず、契約の目的が達成されないときは、依頼者と約定した報酬額を請求ができない場合がある。 売買契約は成立したものの、その売買契約が無効や取消になった場合は、契約は遡って、契約はなかったことになり、媒介業者の報酬請求権は発生せず又は消滅する。媒介業者が、報酬金を受領しているときは、返還する必要がある。契約当事者が制限行為能力者だった場合や消費者契約法上の取消等がこれに該当する。なお、媒介業者が調査・義務違反等不法行為があるなど媒介行為に瑕疵により、契約当事者間の契約が解除となった場合や契約の目的が一部達成できないときは、報酬請求権はなくなるか、請求金額の減額となるであろう。 契約解除でも、媒介業者の責めに帰さない事由による、売買当事者の契約違反や債務不履行による契約解除や当事者間の合意解除があっても、媒介業者の報酬請求権は消滅せず、依頼者に対して報酬を請求することができるとされているが、この場合の解除では、約定した媒介報酬金の全額が請求できない可能性がある。 相談ケースのように、買主が手付放棄による合意解除した場合、媒介業者が、売主と約定した報酬金の全額の請求を否認された裁判例がある。媒介業者と売主が合意の上、媒介契約上合意して報酬金額について、「売買契約締結に際して解約手付が授受されていることは、媒介業者は手付放棄又は倍返しによる解除の可能性を念頭に入れ、そのような場合に備えて報酬の額についての特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であり、媒介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常である。また、媒介業者の残代金の授受や目的物件の引渡等の付随的事務が、手付金放棄による解除の結果、履行に着手することなく売買契約が解除されればこれらの事務を行う必要がなく、報酬額についての合意は適用されない」としている。手付金放棄による契約解除の際の、報酬額の取決めがない場合には、「媒介契約に基づいて仲介業者が売主に請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないこととなるが、報酬について特約がない場合でも、仲介業者は相当の報酬額を請求できると解される(商法第512条)」としながら、媒介報酬の請求額は、「特約のない場合に仲介業者の受け取るべき報酬額については、取引額、仲介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきである」と約定金額の減額が妥当であるとした(【参照判例②】参照)。 宅建業法第46条は、宅建業者が請求することのできる報酬額の限度額を定めているが、媒介報酬については、媒介業者の業務に見合った金額の請求が相当であるとした裁判例である。 契約が決済にまで至らなかったときの媒介報酬額は業者の契約から決済まで一連の業務の寄与度の応じた額が、妥当とされている。売買契約において媒介報酬額については、契約時半金、決済時半金の約定が広く普及しており、契約が解除されたときの媒介業者の受け取る報酬額は、依頼者に特に責に帰すべき事情がないときは、契約時に受領している半金にとどめるのが相当と考えられる。 |
参照条文
○ | 民法第648条(受任者の報酬) | |||
① | 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。 | |||
② | 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。 | |||
③ | 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 | |||
○ | 同法第656条(準委任) | |||
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。 | ||||
○ | 商法第512条(報酬請求権) | |||
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。 | ||||
○ | 宅地建物取引業法第46条(報酬) | |||
① | 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。 | |||
② | 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。 | |||
③ | 〜④ (略) | |||
○ | 標準専任媒介契約約款第7条(報酬の請求) | |||
① | 乙の媒介によって目的物件の売買又は交換の契約が成立したときは、乙は、甲に対して、報酬を請求することができます。ただし、売買又は交換の契約が停止条件付契約として成立したときは、乙は、その条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができます。 | |||
② | 前項の報酬の額は、国土交通省告示に定める限度額の範囲内で、甲乙協議の上、定めます。 |
参照判例①
○ | 最高裁昭和49年11月14日 民集113号211頁(要旨) | ||
仲介人が宅地建物取引業者であって、依頼者との間で、仲介によりいったん売買契約が成立したときはその後依頼者の責めに帰すべき事由により契約が履行されなかったときでも、一定額の報酬金を依頼者に請求しうる旨約定していた等の特段の事情がある場合は格別、一般に仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である。 |
参照判例②
○ | 福岡高裁那覇支部平成15年12月25日 判時1859号73頁(要旨) | ||
一般に、仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最高裁昭和49年11月14日)。特に、債務不履行による解除や合意解除の場合と異なり手付金放棄による解除の場合には、売買契約締結に際して解約手付が授受されていること、すなわち、当該売買契約においては各当事者に手付放棄又は倍返しによる解約権が留保されていることは、仲介に当たった仲介業者も当然認識していたはずであるから、仲介業者としては、本件売買契約には手付放棄又は倍返しによる解除の可能性があることは念頭に置くべきであるし、仲介業者にとって、そのような場合に備えて報酬の額についての特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。他方、依頼者である売主としては、本件媒介契約書に上記のような特約が明記されるか、契約締結に際して特に仲介業者からその旨の説明を受けたという事情でもない限り、履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。これらに加えて、本件においては、本件媒介契約に基づく報酬金の弁済期が本件売買契約に基づく売買残代金の弁済期と同日と定められていること、一般に、不動産取引の場合、仲介業者は、契約成立後の代金の授受や目的物件の引渡等に関する事務も付随的に行うのが通常と考えられるところ、手付金放棄による解除の結果、履行に着手することなく売買契約が解除されればこれらの事務を行う必要がなくなることをも併せ考慮すれば、手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての合意は適用されないと解するのが本件媒介契約の当事者の合理的意思に合致するというべきである。 そうすると、本件媒介契約に基づいて仲介業者が売主に請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないこととなるけれども、報酬について特約がない場合でも、仲介業者は相当の報酬額を請求できると解される(商法第512条)。 (中略)一般に、特約のない場合に仲介業者の受け取るべき報酬額については、取引額、仲介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきであるが、本件のように相手方が差し入れた手付を放棄して解除した場合においては、さらに、手付金放棄による解除がなかったとした場合に仲介業者が受領し得たはずの約定報酬額、解除によって依頼者が現実に取得し利益の額等をも総合的に考慮して定めるべきである。 |
監修者のコメント
媒介の目的である売買や賃貸借契約が無効の場合は、たとえ、その契約書が作成されたとしても媒介報酬請求権は発生せず、また詐欺・強迫あるいは制限行為能力を理由に契約が取り消された場合は、一旦発生した媒介報酬請求権は遡及的に消滅する。この点については異論をみない。ところが、同じ売買等の遡及的消滅でも、合意解除、手付解除あるいは債務不履行解除によって契約が白紙に戻った場合については、一概に結論が出せない。回答に紹介している裁判例のように、当事者間の公平を図る観点から、形式より実質を重視して結論を導いているのが実態である。理論的には、媒介は売買等の契約を成立させることを目的とする行為であるから、目的である売買等の契約が成立し、その効力が生ずれば、約定の全額の報酬請求額が発生することになる(契約時半額、決済時半額というのは、報酬請求権発生に係る特約ではなく、支払時に係る特約である)。
いずれにせよ、掲記の福岡高裁の判決理由でも明言しているように、解除等の場合に媒介報酬がどうなるのかを明確に特約しておくことが、トラブルの防止につながる。