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1802-B-0240掲載日:2018年2月
売主が根抵当権を抹消できないときの媒介業者の責任の有無
当社で土地建物売買の媒介をした。当社は、契約時に登記情報を取得し、根抵当権登記があることを説明し、売主は根抵当権の抹消ができると確約していたにもかかわらず抹消ができずに、契約は売主の違約解除となった。
事実関係
当社は、売買の媒介業者である。小規模店舗を営んでいる法人代表者の自宅である土地建物売買の媒介をした。契約前に売買対象物件の登記簿を調査したところ、代表者である売主が経営する法人が債務者である根抵当権が登記されていた。根抵当権の極度額は、売買価額を下回っており、決済時に根抵当権抹消は問題ないと判断した。念のため、売主にも確認したが、売買代金から譲渡に要する費用を差し引いても抹消は可能だとの回答を得た。当社は、売買契約にあたり、重要事項説明書に登記簿上の売買不動産の売主である所有者名及び根抵当権に関する債権者、極度額、債務者の法人名を記載するとともに登記情報を添付して買主に説明した。また、売買契約書には、「売主は、買主への所有権移転時期までに、抵当権等の担保権等の買主の所有権の行使を妨げる一切の負担を除去抹消する」旨の約定がある。
売買契約の決済予定日の2週間前になり、売主は当社に対して、根抵当権者以外の金融機関からの事業資金の借入金があり返済を請求されており、根抵当の借入金には延滞があり延滞利息がかさんでいるため、売買価額では根抵当権の抹消が困難であると言ってきた。
質 問
媒介業者は、売主が抵当権抹消等、契約の履行ができるかの調査をしなければいけないか。 |
回 答
1. 結 論 | |
不動産媒介業者には、原則として、売買当事者が契約の履行ができないような事情が現れていない限り、媒介業者が進んで、売買当事者の契約履行の可否や資産状況を調査する義務はないと解されている。 | |
2. 理 由 | |
宅建業者が不動産売買契約の媒介業務を遂行する際には、取引物件の調査を行い、重要事項説明書を交付・説明し、契約当事者の取引条件を調整した上で、契約書の作成・交付等、種々の規制や義務がある。また、契約に従った当事者の約定した事項の履行手続きを終えるまでの行為を援助しなければならない。媒介業者の義務である重要事項説明における説明すべき事項は、宅建業法第35条に定められた事項のほか、宅建業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについても説明義務がある(宅地建物取引業法第47条第1号)。同法第47条第1号には、「取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項」が含まれ、契約履行に際して障害となる事項は説明義務がある。 宅建業者の媒介業務は、依頼者との関係では民法上の(準)委任関係であり、業務を進める上で、「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負い(民法第644条)」、宅建業法上でも、「取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない(宅地建物取引業法第31条)」ことが要求されており、媒介業者が、規定に反した行為や調査・説明違反等により取引の相手方に損害を与えた場合は、損害賠償責任などの法的責任を問われることがある。 相談ケースの場合、媒介業者は、媒介業務をするにあたり、売買対象物件の権利関係について、登記情報を交付した上で説明しており、買主も根抵当権の存在を認識している。 契約当事者が契約を明らかに履行できないことを媒介業者が知っていた又は知り得べき場合等には、媒介業者がこれを告げず媒介していれば、不法行為に該当することもある。しかし媒介業者としては、登記簿記載の根抵当額が売買金額を下回っており、売主も契約締結に際し、根抵当権の抹消は問題なくできると言っていることから、「一見して履行を困難ならしめるような事情が現れている場合は格別、そのようなことが窺われない場合に、進んで契約当事者が契約を履行できるか否かまで調査すべき義務は不動産仲介業者にはないというべきである」としている裁判例がある(【参照判例】参照)。 とはいえ、媒介業者としては、調査により抵当権等の担保権等を確認したときには、売主に債権者である金融機関で借入金残高表を取得してもらったり、売主に他の借入金があるかの聞き取りをする等細心の注意を払いたい。 なお、売主が、抵当権の抹消ができず買主への所有権移転の履行ができなければ、売主の契約上の違約に該当し、違約金が定められていれば買主に支払い、契約解除になろう。これは媒介業者の責任とは別の問題である。 |
参照条文
○ | 民法第644条(受任者の注意義務) | ||
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 | |||
○ | 宅地建物取引業法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則) | ||
① | 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。 | ||
② | (略) |
○ | 同法第35条(重要事項の説明等) | |||
① | 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第5号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。 | |||
一 | 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称) (以下略) |
○ | 同法第47条(業務に関する禁止事項) | |||
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。 | ||||
一 | 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為 | |||
イ | 第35条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項 | |||
ロ | ・ハ (略) | |||
二 | イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの | |||
二 | ・三 (略) |
参照判例
○ | 東京地裁昭和61年7月30日 判タ641号146頁(要旨) | ||
不動産の仲介を委託された不動産仲介業者としては、委託の本旨に従い、善良な管理者の注意義務をもって、誠実に仲介事務を処理すべき義務があるものというべきであるから、重要な事項について故意に事実を告げず、あるいは不実のことを告げるようなことがあってはならないのは勿論である。したがって、不動産仲介業者が、契約当事者が契約を明らかに履行できないことを知っていた場合等には、これを告げず仲介するようなことは、媒介契約上の義務に違反するものといわざるを得ない。しかしながら、一見して履行を困難ならしめるような事情が現れている場合は格別、そのようなことが窺われない場合に、進んで契約当事者が契約を履行できるか否かまで調査すべき義務は不動産仲介業者にはないというべきである。 |
監修者のコメント
相談ケースの場合は、回答のとおり媒介業者の責任は生じないと解されるが、それは事実関係を見る限り、媒介業者に過失すなわち注意義務違反はなさそうだからである。
なお、参照判例は、「不動産仲介業者が契約当事者が明らかに履行できないことを知っていた場合等……には義務に違反する」と説示しているが、仮に知らなくても、宅建業者としての判断レベルで、「知り得べき場合」にも義務違反となると解すべきである。根抵当権の極度額より売買代金のほうが高かったとしても、売主が他に債務を抱えているとか、租税の滞納があることを知っていたのに、それに何ら関心を示さないまま成約させた場合などは、調査義務違反となる可能性がある。