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1708-R-0178
借地権者が、賃貸人の承諾を得ないで、借地の一部を駐車場として賃貸することは無断転貸に該当するか

 賃貸の媒介兼管理業者である。自宅用地として借地している借地権者から、空いている敷地の一部を月極駐車場として第三者に賃貸したいので、借主を募集してほしいとの依頼があった。賃貸人の承諾を得ないで、敷地の一部を賃貸することはできるか。

事実関係

 当社は、ベッドタウンといわれている都心郊外を営業エリアとして賃貸の媒介兼管理業を営んでいる。10年前に自宅所有を目的とした借地契約の媒介をした土地の賃借人から、賃借している敷地の一部を駐車場として貸したいので借主を見つけてほしいと依頼されている。賃借人の家族は夫婦と子2人の4人であったが、現在は2人の子も独立して、他所に住んでいる。そのため、家族で使用していた自動車3台分の駐車場のうち、2台分のスペースは空いているので、賃借人は、第三者に駐車場として賃貸したいと考えている。賃貸する敷地面積は、賃借している土地の10%程度とわずかである。
 駐車場の賃貸借契約は、賃貸借期間を1年、更新は可能とし、貸主・借主双方とも1か月前の申し入れにより契約解除ができる内容とする予定である。土地賃貸人の承諾はまだ得ていない。

質 問

1.  土地の賃借人が、敷地の一部を駐車場として第三者に賃貸することは、借地の転貸に該当し、土地の賃貸人の承諾が必要になるのか。
2.  賃借人が、賃貸人の承諾を得ないで、敷地の一部を第三者に賃貸した場合、賃貸人は、賃借人の無断転貸を理由として、土地の賃貸借契約を解除することはできるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 借地の使用目的に従った建物の利用に伴い、第三者に駐車スペースなどとして使用させることは、転貸にあたらないが、特定の第三者に月極駐車場などとして賃貸することは転貸となり、土地賃貸人の承諾を要する。
 質問2.について ― 賃貸人は、賃借人の無断転貸を理由として、土地の賃貸借契約を解除することができる場合がある。
2.  理 由
⑵について
 土地の賃貸借において、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに、無断で第三者に賃借物を転貸することは禁じられており、賃貸人は、賃借人が賃貸人に無断で第三者に転貸した場合には、一方的に賃貸借契約を解除することができる(民法第612条)。また、賃借人は、土地賃貸借契約の使用目的に従った用法で使用収益しなければならず、用法に従わない使用をしたときには用法違反により、賃貸人は前記同様に契約の解除ができる(同法第594条)。
 賃貸借契約は、契約当事者の個人的信頼関係を基礎とする継続的法律関係であり、賃借人が、賃貸人に無断で第三者に賃借物を使用収益させることは契約の本質に反し、このような行為は賃貸借関係を継続することのできない背信的行為があったものとして、賃貸人は、一方的に賃貸借関係を終了させることができると解されている。
 相談ケースのように、たとえ無断転貸が借地の一部であり、駐車場契約の解除が容易で直ちに原状回復ができるとしても、建物所有の目的の範囲内の利用と認められず、転貸に該当し、当事者の信頼関係が破壊されている認められるときには、賃貸人からの契約の解除が認められる(【参照判例①】参照)。
 しかし、賃貸人の承諾を得ないで転貸しているからといって必ずしも賃貸借契約の解除ができるわけではなく、「賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合においては解除することができない」との確立した判例理論がある(最高裁昭和28年9月25日)。転貸行為が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊しないかぎり、賃貸人は契約を解除することができないといえる。本ケースと同様に、転貸している対象が借地の重要な部分ではない一部であるときは、契約解除が認められない場合もある。
 なお、土地の賃借人の賃貸借の目的が、飲食店、劇場等の不特定多数の顧客の来訪を目的とした建物所有や、アパート等の賃貸借目的の居住用建物を所有する場合に、駐車スペースなどとして借地の一部を第三者が使用することは、社会通念上建物所有の目的の範囲内の利用行為と認められ、無断転貸には当たらないと解されている(【参照判例①】参照)。
 一方、土地の賃借人が、主たる建物に付属する駐車場建物を建築し、建物施設の一部を駐車場として第三者に賃貸することは、土地賃借人の土地占有と別個の独立の占有を得させるものではなく、土地の転貸には該当しないとしている裁判例もある(【参照判例②】参照)。
 かつての判例は、無断転貸や用法違反を認めながらも、契約解除は認めなかったものがあるが、土地の賃貸借の取引実務では、借地の転貸を依頼されたときは、無断転貸又は用法違反として土地賃貸借契約を解除されるおそれがあるので留意すべきである。

参照条文

 民法第594条(借主による使用及び収益)
 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
   借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
   借主が前2項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
 同法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 同法第616条(使用貸借の規定の準用)
 第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。

参照判例①

 東京地裁平成5年3月29日 判タ871号252頁(要旨)
 民法第612条が賃貸人の承諾なく賃借人が賃借権を譲渡し目的物を転貸することを禁じ、これに反して第三者に使用収益させたときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができるものと規定している趣旨は、賃借権が当事者の個人的信頼関係を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人において賃貸人の承諾なくして第三者に賃借物を使用収益させることは契約の本質に反することから、このような行為のあったときには賃貸借関係を継続することのできない背信的行為があったものとして、賃貸人において一方的に賃貸借関係を終了させることができることを規定したものというべきである。
 右趣旨に照らせば、第三者に使用収益させた対象が賃貸借の目的である借地の一部であるからといって民法第612条にいう「転貸」に該当しないということはできない。
 本件においては、前記認定のような契約内容及び利用形態であることに照らせば、本件駐車場部分を第三者に駐車場として使用させたことは転貸に該当するものというべきである。たしかに、借地上に商店、飲食店、劇場等の、不特定多数の顧客の来訪を伴う建物を所有ないし管理する場合において、自動車を利用する顧客の来訪を容易ならしめるために、右建物に付属して不特定多数の顧客を対象とするいわゆる時間貸しの駐車場を設置するような場合には、第三者を対象とする駐車場として借地の一部を使用することが、社会通念上右建物所有ないし管理の目的の範囲内の利用行為と認められることもあり得るものといえる。しかし本件においては、前記認定のとおり、特定の賃借人を対象として賃貸期間1年間しかも更新を前提とする駐車場契約を締結しているのであって、これらの点を考慮すれば、本件駐車場部分を第三者に駐車場として使用させたことについては、社会通念上本件建物所有の目的の範囲内の利用と認めることは到底できないものであり、転貸に当たることは明らかである。なるほど、前記のとおり駐車場部分は全体の12ないし15%であるが、そのことをもって、転貸に該当しないということはできないし、また、契約上、貸主は1か月の事前通告により賃貸借を解約できることとされているが、そうだからといって転貸に該当しないということもできない。

参照判例②

 東京地裁昭和56年6月17日 判タ871号252頁(要旨)
 民法第612条が賃借人のする転貸を賃貸人の承諾がない限り許されないとする趣旨は、転貸によって目的物につき転借人が独立の占有を取得し目的物の使用方法の変更をもたらすおそれがあること、賃借人が目的物の使用収益について直接的な関与をしなくなることから賃料の支払についても賃貸人の期待に反する結果が生じやすいことなど転貸借によって賃貸人の側にもたらされるおそれのある不測の不利益を防止しようとするにあるものと解される。(中略)
 そこで第三者に対する前記駐車場施設の賃貸がその敷地の転貸に該当するかどうかについて考えると、右駐車場施設の賃貸借は地上建物の賃貸借に準じて考えることもできるものであり、これによってその賃借人に施設の敷地である本件土地について施設の所有者である土地賃借人の占有と別個に独立の占有を得させるものではなく、本件土地自体の使用関係は右賃貸の前後を通じ変わらないことが明らかであるから、第三者に対する本件駐車場施設の賃貸をもって本件土地の転貸に当たるものと解することはできない。

監修者のコメント

 転貸に該当するかどうか、解除ができるかの問題は、回答のとおりであり、掲げられている裁判例も、一般的に通用する論旨であって、類似事例にそのまま、当てはめてもよいと考えられるものである。
 ただ、賃貸の管理業者として、このような問題に当面した場合、転貸に該当するか否かの理論は、ともかく少しでも借地権者の土地の使用型態が変わるときには、賃貸人に話しをし、その了解をとるよう助言することが適切である。賃貸借は、まさしく個人的信頼関係に基礎を置く継続的契約であって、単に法的な理論だけで割り切れるものではないからである。

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