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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1706-R-0174
建物賃貸借における、敷地の利用権

 アパートの賃貸借契約の媒介をしたが、賃借人がアパートの敷地の一部に物干し台を置いて使用しており、賃貸人は賃借人に対し、敷地を勝手に使用することは認めないので、物干し台を撤去するようにと言っている。

事実関係

 当社は、賃貸借の媒介業者である。アパートの1階に入居した賃借人が、アパートの敷地に洗濯物を干す物干し台(折りたたみ式で使用しないときは建物の脇に立てかけて置くもの)を置いたところ、賃貸人から賃借人に、賃貸しているのは建物の1室であるのだから、敷地に物を置かないようにとの注意があった。
 物干し台を置くのは芝生を植えてある庭の一部で、狭小ではあるが、他の入居者の通行の障害には特段なってはいない。

質 問

1.  アパートの賃借人は、その敷地の一部を通行以外に使用することができないのか。また、一戸建ての場合、賃借人がその敷地をどのように使用するかは、賃借人の自由と考えてもいいか。
2.  賃借人が、敷地利用権の範囲を超えて使用している場合、賃貸人は賃借人に対して賃貸借契約の解除ができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃借人は、賃借している建物を使用するために必要な限度で、敷地を使用することができる。
 質問2.について ― 是正の申入れをしても応じないとか、信頼関係が破壊されたといえる場合は、賃貸借契約の解除をすることは可能である。
2.  理 由
⑵について
 建物賃貸借の目的物は、直接的には建物であって土地ではないが、賃借人が敷地を使用できないのであれば建物に出入りすることができず、建物賃貸借の目的を達することができない(民法第601条、第616条)。したがって、賃貸人と賃借人との間で敷地利用契約がなくても、建物の賃貸借においては、当然に敷地の利用権があると解されている。しかし、賃借人が敷地を使用できる範囲は、無制限に使用できるのではなく、必要とされる程度に限られる(【参照判例①】参照)。敷地の利用権は、店舗等の事業に供する建物賃貸借でも、必要とされる程度に使用は可能であるとされているが、当然に利用権があるのではなく、利用権の有無は、「具体的事案によって判断されるべき」とされている(【参照判例②】参照)。
 「必要とされる程度」がどの程度であるかでは、敷地利用の範囲及び内容が問題になる。建物賃貸借契約に敷地利用に関する特約があればそれに従うが、その特約が不合理であれば、特約は無効と考えられる。問題は、「建物を使用するため必要な限度でその敷地の通常の方法による使用」(【参照判例①】参照)である。
 アパート等の共同住宅と一戸建ての場合とで違いはあるが、一般に、建物と敷地の状況、賃借の目的、賃借人が建物を建築した規模・構造等、原状回復が容易かどうか、庭木・植樹等の保管義務の有無などを勘案して判断されるものであろう。
 相談ケースのような、アパート敷地に同物件の賃借人が物干し台を設置したということであれば、他の居住者に迷惑がかからないものであれば、日常生活に必要な範囲として認められるであろう。しかし、一般的にアパートの建物部分以外の敷地は狭小な場合が多く、自動車の駐車場に利用したり、家庭菜園をしたりするだけのスペースの確保は難しく、これらはアパートの賃貸使用目的において、通常の使用とは言えないだろう。
 一戸建ての賃貸借の場合に利用できる敷地の範囲は、庭木・植樹等の保管義務があれば、通常はそれらを除いた、建物が建っている区画された敷地の全てに及ぶものと考える。この場合は、植樹や花壇、家庭菜園、物置やプレハブの子供部屋・書斎のような撤去可能な簡易建物などが、許されると解する。しかし、賃借している建物を賃借人が賃貸人の許可なく改造したり、増築したりすることは、許されない。
 アパート等の共同住宅と一戸建てのどちらの場合も、賃借人が敷地利用権の範囲を超えて使用したときは、賃貸人は賃借人に対し、違反行為の停止あるいは催告した上で行う通常の契約解除が可能であり、賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するような重大な違反の場合には、無催告解除ができると考える(民法第400条、第594条)。また、用法違反により、賃借人が賃借建物等に損害を与えた場合は、賃貸人は賃借人に対して損害賠償の請求ができることは、当然である。

参照条文

 民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
 同法第594条(借主による使用及び収益)
 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
 (略)
 借主が前2項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
 同法第601条(賃貸借)
 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第616条(使用貸借の規定の準用)
 第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。

参照判例①

 東京高裁昭和34年4月23日 判タ92号50頁(要旨)
 住宅に使用するための家屋の賃貸借契約において、その家屋に居住し、これを使用するため必要な限度でその敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然であって、この場合その敷地の占有使用につきことさらに賃貸人の同意を得る必要はない。然しながら飽く迄も賃借家屋の使用占有に伴うもの、言い換えれば本来の目的たる家屋の使用を占有する上において常識上当然に必要とされる程度に限られるものと言わなければならない。

参照判例②

 東京地裁昭和61年6月26日 判時1228号94頁(要旨)
 ビルの1階店舗の賃借人が、一般的に、当然に当該ビルの敷地を使用する権利を有するとはいえないが、ビルの1階店舗の構造、外観、敷地との位置関係、店舗の業種、契約内容、現実の占有使用態様等によっては、用法に限界があるとはいえ、道路に面する敷地について、賃貸借の目的物に付随してこれを占有使用する権利を有する場合があり、その有無は、具体的事案によって判断されるべきものというべきである。(中略)本件土地を、賃貸借の目的物である本件店舗に付随して占有使用する権利を有しているものと解するのが相当である。

監修者のコメント

 本ケースにおける賃貸人の主張すなわち「賃貸しているのは、建物の一室だから、敷地を利用できない」というのは、明らかに誤りである。これを極論すれば、賃借人は土地を通らず、公道から借りている部屋にジャンプして入らなければならない。回答の判例も言うとおり、家屋に居住し、これを使用するために必要な限度において使用することができる。その限度は、その敷地の広さ、他の賃借人の利用の障害となるか否か、賃貸人が利用を禁止する理由の合理性、賃借人の土地利用の必要性等を衡量して総合的に判断しなければならない。
 いずれにせよ、このようなトラブルは、しばしば生ずるので賃貸借の媒介業者は、重要事項説明書や賃貸借契約の特約にわざわざ書かないまでも、敷地利用の範囲を明確化しておくことが望ましい。

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