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売買事例 1702-B-0226掲載日:2017年2月
行方不明者名義の自宅を売却することができるか
マンションの所有者が長期間行方不明となっている。所有者の妻からローン支払いが困難な状況となっているので、マンションを売却したいと相談されているが、売却することはできるのか。売却が可能であれば、どのように進めればよいか。
事実関係
当社は、不動産売買の媒介業者である。自宅マンションを売却してほしいとの依頼がある。依頼してきたのは、マンションに居住している、所有者の妻からである。妻の話によると、所有者である夫は、3年前に出勤すると言って自宅を出たが、勤務先には出勤しておらず、その後、連絡が取れず行方不明となっている。いわゆる蒸発であるが、その理由も定かでないようだ。妻は、翌日に警察へ家出人として捜索願を届け出たが、未だに行方は分からず、生死も不明である。
マンションは購入して10年が経過しているが、住宅ローンが残っており、2人の子を育てながら、今後、更にローン返済を続けていくのは難しく、夫の兄弟に相談したところ、マンションを売却して生活資金を確保したらどうかと言われている。
当社としても、売却に協力したいと考えている。
質 問
1. | 妻は、行方不明の夫名義の自宅不動産を売却することができるか。 | |
2. | 売却が可能になるまでにはどのくらいの期間が必要か。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 不在者財産管理人による権限外行為についての家庭裁判所の許可、又は失踪宣告による相続手続きが完了すれば、売却をすることが可能である。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 約6か月~1年の期間を要する。 |
2. | 理 由 | ||
⑴ | について 行方不明や音信不通などによる不在者の財産を売却等の処分を行う方法として2通りある。1つ目は、不在者財産管理人による権限外行為許可による処分である。不在者とは、従来の住所又は居所を去った者で、容易に戻る見込みのない者を言い、行方不明者を指すことが一般的である。2つ目は、失踪宣告により不在者は死亡とみなされ、不在者の相続人が財産を引き継いだ後に処分することが可能となる。 行方不明者の不在者財産管理人の選任は、利害関係人又は検察官の請求により家庭裁判所が行う(民法第25条)。利害関係人は、不在者の配偶者、推定相続人、債権者等が該当する。不在者財産管理人の権限は、権限の定めのない代理人として、財産の保存・利用・改良の管理行為のみに限られる(民法第27条、第103条)。 不在者財産管理人が、不在者の財産の売却等の処分をする行為が必要な場合、処分行為は、不在者財産管理人の管理行為を超えるため、不在者財産管理人の選任とは別に権限外行為の許可を家庭裁判所から得る必要がある(同法第28条)。 権限外行為の許可は、相談ケースのように、住宅ローン返済等の負債の弁済等であれば、原則、認められる可能性が高い。 一方、失踪宣告は、不在者の行方不明の状態が7年以上続いている場合、利害関係人が家庭裁判所に申立てをし、認められると失踪の宣告(普通失踪)がされ(同法第30条)、その不在者は死亡とみなされる(同法第31条)。なお、戦争、船舶の沈没等の危難に遭遇し、生死が不明の場合は、危難の去った1年後に失踪宣告(特別失踪)をすることができる(同法第30条)。 失踪宣告の確定後、不在者の財産は、通常の遺産分割手続きにより、相続権利者に相続されることになるので、財産を引き継いだ者は、自由に処分することが可能となる。 相談のケースでは、妻は、夫が行方不明になってから7年を経過していないため、失踪宣告の選択ができず、不在者財産管理人の申立をするしかない。なお、普通失踪の7年、特別失踪の1年を経過している場合でも、必ずしも失踪宣告をしなければならないわけではなく、不在者財産管理人の申立をすることができる。 不動産業者は、不在者の財産の売却において、不在者財産管理人との間で媒介契約を締結する際は、当該不在者財産管理人が代理権を証する家庭裁判所発行の選任審判書を確認する必要がある。なお、裁判所への不動産の処分についての権限外行為の申立には、売却価額の妥当性が権限外行為の許可審判の要素となっており、売買契約書案を添付する必要がある。実務的には、不動産の購入予定者を確定し、売買価額の記載された売買契約書の事前合意が求められる。 また、失踪宣告の場合、相続人への相続登記完了、又は遺産分割協議書が作成されているかを確認し、真の売主を確定した上で、売却の媒介契約を締結しなければならない。 |
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⑵ | について 不在者財産管理人の選任は、家庭裁判所へ選任の申立を請求してから通常3~4か月程度の期間を要し、さらに、不動産売却に関する権限外行為の許可を得るには、1~2か月かかる。宅建業者の実務的には、相談から、販売活動が開始されるまでの期間は、少なくとも6か月程度の期間が必要であろう。 失踪宣告の場合は、普通失踪と特別失踪で手続(公示催告期間)が異なり、宣告までに要する期間は10か月~1年程度は見ておいたほうがいいだろう。 |
参照条文
○ | 民法第25条(不在者の財産の管理) | ||
① | 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第27条(管理人の職務) | ||
① | 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。 | ||
② | 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。 | ||
③ | 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。 | ||
○ | 同法第28条(管理人の権限) | ||
管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。 | |||
○ | 同法第30条(失踪の宣告) | ||
① | 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。 | ||
② | 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者、その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。 | ||
○ | 同法第31条(失踪の宣告の効力) | ||
① | 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。 | ||
○ | 同法第103条(権限の定めのない代理人の権限) | ||
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。 | |||
一 | 保存行為 | ||
二 | 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為 |
監修者のコメント
本ケースにおいて失踪宣告の手段を選んだ場合、あと4年くらいの時間の経過が必要であるから、現実的ではなく、回答にある「不在者財産管理人」の選任による売却が妥当である。そして、「不在者」と認められるのは、ケースの事情によるが、少なくとも行方不明から1年経っていることが必要であるが、本ケースは、すでに3年経過しているので問題はない。不在者財産管理人に選任されるのは、弁護士や司法書士などの例も少なくないが、本ケースでは不在者の妻を選任してもらうことが適切であり、家庭裁判所もそれを認めると思われるが、妻が進めるとしても、選任の申立てやその後の家裁の権限外行為の許可には、各種の書類を揃えなければならず、手続も面倒なので、専門家に相談し、その指導を受けながら進めるほうが円滑に進むと考える。