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賃貸事例 1612-R-0168
期間の定めのある建物賃貸借契約において、賃借人が中途解約した場合の違約金条項の有効性

 賃貸ビルの賃貸人から、賃借人が中途解約する場合、居住用部分は、短期解約違約金支払の約定、事業用部分は、残存期間の家賃相当分を違約金とする賃貸借契約にしたいと要望されている。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。賃貸ビルの賃貸人から、最近、賃借人が退去した場合、次の賃借人がなかなか決まらず、建物建築をしたときの借入金の返済に不安がある。そのため、居住用部分の賃貸借契約では、賃借人からの中途解約は認めず、賃借人が中途解約する場合は、賃貸借契約から1年未満のときは、賃借人は違約金として賃料の3か月分相当額を支払う内容の違約金条項としたい。また、ビル1階の事務所・店舗部分の賃貸借契約については、居住用と同様に中途解約を入れず、期間満了までの残存期間の賃料相当分を違約金とする約定にしたいと言っている。

質 問

1.  賃借人が一般消費者で、期間の定めのある建物賃貸借契約において、賃借人からの賃貸借開始から1年未満で解約の場合には、賃料の1か月相当額の中途解約違約金を賃貸人に支払う約定は問題ないか。
2.  賃借人が法人で、事業用の建物賃貸借契約において、期間満了前に賃借人から解約をする場合は、期間満了までの残存期間の賃料相当額を違約金として賃貸人に支払うという約定は有効か。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 問題ないと考える。ただし、違約金の約定額が高額で、賃借人に不利益な場合は、消費者契約法により約定が無効になる場合がある。
 質問2.について ― 約定自体は有効であるが、違約金の金額が高額になるときは、違約金の一部が無効となる場合がある。
2.  理 由
について
 賃貸借契約において、賃貸人と賃借人の契約の約定は、原則として契約自由の原則により、当事者の合意があれば自由に設定することができる。一般的に、建物賃貸借契約では賃貸借の期間を定める契約形態が多数であり、契約期間を定めることにより、賃貸人は賃借人に賃料を負担させ、賃貸期間の賃料収入確保を見込んでいる。賃借人に中途解約されると、賃貸人が賃貸借期間に予定していた賃料収入の減少を及ぼすものとなる。賃貸借契約の違約金条項は、このような賃貸人の損害を補填しうる方法を予定するものと解されている。
 近年、一部地域では、賃貸物件の供給過剰地域が現出し、入居者確保競争により、いわゆる礼金・敷金なしで賃借人が入居できるゼロゼロ物件と言われる契約時の費用負担を軽減する賃貸物件が増加している。賃貸人にとっては、賃借人に短期で中途解約されると、次の賃借人を入居させるまで期間を要したり、募集時期によっては、入居希望者の確保が難しかったり、募集家賃を値下げしなければ、新規の契約ができない等の事態が起こり得る。そのため、賃貸人は賃借人が短期で中途解約したときの損害を少しでも補填する目的で、賃借人との賃貸借契約で、短期の中途解約違約金を特約するケースがある。
 賃借人が中途解約するときの違約金は、賠償額の予定(民法第420条)と解される。違約金の額は、どの程度の金額を設定することができるであろうか。期間の定めのない賃貸借の賃借人からの解約の申入れは、申入れの3か月後に賃貸借期間が終了し、(同法第617条)、即時賃貸借契約を終了させるためには、賃料の3か月相当分の支払により終了すると解されることから、中途解約違約金を賃料の3か月相当分までは合理性がある。しかし、賃貸人が事業者(大家も含む)で、賃借人が一般消費者の場合の居住用建物の賃貸借契約は、消費者契約法の適用があり、違約金の額が、賃借人に不利益をもたらすときは、一定額以上の部分の違約金額は無効(同法第9条第1項)となることがあることに留意しなければならない。
 賃貸借契約で、賃借人の1年未満の解約の場合は、賃料の2か月相当分の違約金とする、中途解約特約を認めながらも、一般の居住用建物の賃貸借契約では、中途解約で支払うべき違約金額は賃料の1か月分とする例が多数であり、次の入居者の募集期間を考慮しても、解約により賃貸人が受けることがある平均的な損害は賃料の1か月相当額であると認めるのが相当であるとする裁判例(【参照判例①】参照)がある。
について
 事務所や店舗等の事業用建物の賃貸借においては、賃貸人が次の賃借人を確保するのに期間を要するものも多く、そのため、事業用建物賃貸借契約では、賃借人からの中途解約は、3~6か月前予告にする特約が一般的である。中には、ケースのように、賃借人からの中途解約条項は認めず、賃借人は期間満了までの残存期間の賃料相当額を違約金として支払う旨の特約を定めるものがある。事業用建物賃貸借契約では、賃借人が中途解約したときの違約金は、賃貸人が新たな賃借人を確保するまでの間、建物を有効利用できないことによる損害を賠償する趣旨で定められ、賃借人の違約金支払の特約は、賃貸人と賃借人間の合意により、約定自体は有効であるとされている。
 しかしながら、4年の期間を定めて事業用建物賃貸借契約をした賃借人が、入居後10か月での中途解約で、賃貸人が賃借人に、期間満了までの3年2か月分の違約金の支払を賃借人へ請求した争いで、「賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効(民法第90条)と評価される部分もある。」とし、全額の請求は認めず、10か月分を超える違約金の額については、無効とした裁判例(【参照判例②】参照)がある。
 なお、損害は生じたが、損害額の立証が損害の性質上、困難であるときには、裁判所が、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することになる(民事訴訟法第248条)。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
 (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 同法第90条(公序良俗)
 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
 同法第420条(賠償額の予定)
 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
   賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
   違約金は、賠償額の予定と推定する。
 同法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
二 建物の賃貸借 三箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 一日
   (略)
 民事訴訟法第248条(損害額の認定)
 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
 消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
   (略)
 同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

参照判例①

 東京簡裁平成21年8月7日(要旨)
 賃貸借契約において、賃借人が契約期間途中で解約する場合の違約金額をどのように設定するかは、原則として契約自由の原則にゆだねられると解される。しかし、その具体的内容が賃借人に一方的に不利益で、解約権を著しく制約する場合には、消費者契約法10条に反して無効となるか、又は同法9条1号に反して一部無効となる場合があり得ると解される。
 途中解約について違約金支払を合意することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが、賃貸開始より1年未満で解約する場合に違約金として賃料の2か月分、1年以上2年未満で解約する場合に違約金として賃料の1か月分を支払うという本件契約上の定めが、民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して、消費者の権利を制限し又は義務を加重して、民法1条2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとまではいえない。
 しかし、一般の居住用建物の賃貸借契約においては、途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1か月分とする例が多数と認められ、次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても相当と認められること、賃貸人が主張する途中解約の場合の損害内容はいずれも具体的に立証されていないこと、および弁論の全趣旨に照らすと、解約により賃貸人が受けることがある平均的な損害は賃料の1か月相当額であると認めるのが相当である。

参照判例②

 東京地裁平成8年8月22日 判タ933号155頁(要旨)
 建物賃貸借契約において、1年以上20年以内の期間を定め、期間途中での賃借人からの解約を禁止し、期間途中での解約又は解除があった場合には、違約金を支払う旨の約定自体は有効である。しかし、違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もある。

監修者のコメント

 中途解約の場合については、回答に付け加えるべきことはないが、本件のようなケースにおいて意外に誤解されていることが、中途解約の禁止条項の問題である。建物賃貸借契約において、賃借人から一定の予告期間を設けて中途解約ができる条項がしばしば見られるが、もし、このような中途解約が一定の要件の下にできる旨の特約がなければ、普通の建物賃貸借では、賃借人から中途解約は、できない。わざわざ「中途解約はできない」という禁止条項を設けなくても、中途解約を認める条項を設けない限り中途解約はできない。この点、借地借家法が賃借人を保護する規定を多く設けていることから、賃借人の中途解約権も法律上保障されていると思っている向きもあるが誤解である。ただ、定期建物賃貸借だけは、居住用建物で床面積が200㎡未満のものに限り、一定のやむを得ない事情があれば、1か月の予告期間で解約できるということを強行法的に保障している(借地借家法第38条第5項)。
 この規定は、あくまでも、たとえば期間3年と決めて借りた賃借人は、3年間、絶対的に借りる権利があるとともに、3年間借りる義務があるという大原則を前提に、特に賃借人を保護するために定められた例外的規定である。このような規定は、普通の建物賃貸借ではない。ただ、その賃借人がそこに住む必要性がなくなったときにまで、そこに住めというのは不合理なので、世上一般に賃借人からの中途解約を認める条項を設けているのである。それは、あくまでも特約にすぎない。
 なお、これに関連して、たとえば「賃貸人は6か月前の予告で、賃借人は2か月前の予告で解約申入れできる」旨の契約条項は、一見、賃貸人の予告期間が長いので有効と考える人もいるが、賃貸人からの解約は「正当事由」がなければできないので、正当事由を無視して解約できるという限りにおいて無効である。これに対して、賃借人からの解約に関する部分は有効である。このようなことを「片面的無効」という。

より詳しく学ぶための関連リンク

・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「敷金」
“スコア”テキスト丸ごと公開! 「定期建物賃貸借(定期借家)」

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