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売買事例 1610-B-0220
少額手付による手付解除を防止するための違約金条項の有効性

 少額手付による手付解除を防止するために、「手付解除をする場合には、違約金として売買代金の20%相当額を支払う」という特約を定めたいが、そのような特約は有効かという質問に対し、「そのような特約は無効である」と回答したが、その回答は正しいか。もし正しいとした場合、どのような特約にすれば、手付解除を防止することができるか。

事実関係

 先日ある講習会で、受講者が、「手付金が少額の場合に、キャンセル防止のために、手付解除をする場合には、違約金として売買代金の20%相当額を支払う旨の特約を定めたいが、その特約は有効か」という質問をした。それに対し講師は、「そのような特約は無効である」と答えた。なお、この受講者が想定している取引は、売主が宅建業者以外の場合の取引だということである。

質 問

1.  この講師の回答は、正しいか。
2.  もし正しいとした場合、どのような特約にすれば、手付解除を防止することができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 質問の意味が、文字どおり、「手付解除をする場合に違約金を支払わなければならない」というのであれば、手付金の額と違約金の額のいかんによっては、その違約金条項が公序良俗違反等の理由により無効と解される余地もあるので、その限りにおいて講師の回答は正しいといえるが、この問題については、ケースのいかんにより有効・無効の2通りの見解が考えられるので、そのどちらか一方に断定することはできないし、また好ましいやり方ともいえない。
 しかし、その特約の内容が、当事者に手付解除をさせないために、手付の解約手付性を否定したうえで、違約の場合に違約金を支払うというものであれば、その特約は有効である。
 質問2.について ― 質問にあるように、文字どおり、「手付解除をする場合に違約金を支払う」という特約ではなく、手付について、解約手付としての性質を排除したうえで、たとえば次のような特約を定めれば、手付解除を防止することができよう。
 なお、宅建業者が売主で、買主が宅建業者以外の場合、手付金はいかなる性格の手付金であっても、解約手付の性格をもつことになり、これに反する特約は無効となるので注意が必要である(宅地建物取引業法第39条第2項、同第3項)。
(特 約)
 「売主および買主は、第○条の手付解除の定めのいかんにかかわらず、本契約締結後は手付の放棄・倍返しにより契約を解除することができず、買主が本契約に違約したときは、買主は手付を放棄し、更に第○条の違約金を売主に支払い、売主が本契約に違約したときは、売主は受領済みの手付金を買主に返還し、更に第○条の違約金を買主に支払うものとする。」
2.  理 由
⑵について
 【事実関係】を見る限り、本件の売買契約における手付は「解約手付」であるから、契約の当事者は、原則として相手方が履行に着手するまでは、手付の放棄・倍返しのみによって売買契約を解除することができる(民法第557条)。これが「手付解除」といわれるものである。にもかかわらず、当事者が、「手付解除により売買契約を解除する場合には違約金を支払う」というような特約をした場合には、その特約の内容が、本来であれば手付の放棄・倍返しだけで手付解除ができるにもかかわらず、違約金を支払うという矛盾した内容のものになってしまうからである。
 したがって、当事者がどうしても手付解除をさせないために違約金を支払うようにしたいというのであれば、結論の⑴⑵で述べたように、特約の内容を、手付について解約手付の性質を排除したうえで、違約の場合に違約金を支払うものにすれば、手付解除という方法での契約解除は防止することができると解されるからである(後記【参照判例①②】参照)。

参照条文

 民法第557条(手付)
 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
   (略)
 宅地建物取引業法第39条(手附の額の制限等)
 (略)
   宅地建物取引業者が、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手附を受領したときは、その手附がいかなる性質のものであつても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手附を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
   前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。

参照判例①

 大判大正6年3月7日民録23輯421頁(要旨)
 代金4,000円の不動産売買契約において、買主から売主に手付として200円が交付され、買主が違約の時は手付金を放棄し、なお違約金1,000円を支払うこと、売主が違約の時は手付金を返還し、なお違約金1,000円を支払うということが取り決められた場合には、民法557条の適用はなく、したがって、売主は400円を提供して契約を解除することはできない。

参照判例②

 最判昭和24年10月4日民集3巻10号437頁
 民法557条は任意規定であるから、当事者が反対の合意をしたときはその適用はないが、同条の適用が排除されるためには反対の意思表示がなければならない。契約書に、違約の場合には手付の没収又は倍返しをするという条項がある場合であっても、解除権留保と併せて違約の場合の損害賠償額の予定をすることは十分に考えられることであるから、それだけでは同条に対する反対の意思表示があったということはできない。

監修者のコメント

 手付には、解釈上①契約が成立した証拠として授受される「証約手付」②当事者が違約したときの違約罰を定める「違約手付」③手付放棄、手付倍返しによる解除権留保の趣旨の「解約手付」の3種類があり、実際の売買においての手付がどれに当たるかは当事者の意思による。そして、当事者がどれであるかを取り決めなかった、あるいはどれか明確でないときは、解約手付と推定することになる(民法第557条)。したがって、手付による解除は、その手付が解約手付だからこそできるのであるから、授受される手付は、解約手付以外の手付すなわち証約手付又は違約手付であることを契約書に明定すればよい。
 ただ、回答のように解約手付の場合、手付解除のときに別途違約金をとることはできない、というのも一つの見解であるが、民法の解約手付に関する規定は、あくまでも任意規定であるから、当事者が特約で手付解除の場合の違約金を定めることは、契約自由の範囲内の問題として有効と解される余地も十分ある。解約手付が授受された場合、たとえ手付解除によって一方当事者に手付の額を超えて損害が生じても、損害賠償請求ができないというだけのことであって、その場合の違約金条項を無効とする論拠がないからである。
 なお、手付がどうせ少額であるのであれば、手付金をなしとする方法もある。手付金がなければ、手付解除ができないのは当然だからである。

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