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賃貸事例 0910-R-0069掲載日:2009年10月
借主からの家賃の減額請求の方法
借主は、「ミニバブル時の家賃相場の高いときに借りたのだから、家賃相場の下がった今は、家賃を下げるべきだ」と言っているが、借主は、自分が適当と考える額の家賃を供託することができるのだろうか。法的な値下げ交渉の手続は、どのように行うのか。
事実関係 | |
当社は賃貸の媒介・管理業者であるが、このたび、あるマンションの借主から、「自分は、ミニバブル時の家賃の高いときに借りたので、現在の家賃相場まで家賃を下げて欲しい」と大家に言ったが、大家は一向に応じてくれない。その理由は、大家自身も価格の高いときにマンションを買ったからだと言っているのだが、何とかならないものか、と言ってきた。 | ||
質問 | |
1. | この大家の言い分は、正しいか。借主の方は、「家賃相場が下がったときは、家賃を下げるのが筋だ」と言っているが、どちらの言い分が正しいか。 | |
2. | 借主は、家主との値下げ交渉をしている間、自分が適当(相場)と考える額の家賃を供託したいと言っているが、できるか。 | |
3. | 大家に対する家賃の値下げ交渉は、法的には、どのように進めていくのか。 | |
回答 | ||
(1) | 質問1.について—言い分だけを考えれば、借主の言い分の方が正しい(借地借家法第32条第1項)。ただし、言い分が正しいからといって、法的手段をとれば、必ず通常の家賃相場まで下がるというものではない。なぜならば、家賃の相当性・不相当性の判断は、過去の経緯等を含めた諸般の事情を総合的に考慮して、現行の家賃を維持することが公平か否かという見地から判断されるものだからである。 | |
(2) | 質問2.について—できない。なぜならば、借地借家法第32条(借賃増減請求権)の規定は、その第3項で「家賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者(貸主)は、減額を正当とする判断が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を請求することができる。」と定めており、その貸主が相当と認める額の借賃(通常は、現行の家賃)を、借主が支払わなかったときは、借主は、家賃の不払いによる債務不履行ということになるからである。 なお、このようなケースで、家賃の不払いにより契約の解除が認められた裁判例として、次のようなものがある。 ○ 東京地判平成6年10月26日判時1559号61頁。 ○ 東京地判平成10年5月28日判時1663号112頁。 |
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(3) | 質問3.について—法的な手続としては、まず借主が、その物件の所在地を管轄する簡易裁判所に調停を申立て(民事調停法第24条、第24条の2)、そこで話がまとまり、それを「調書」にすれば、その調書が確定判決と同一の効力を有するものとなる(民事調停法第16条、第24条の3第2項、民事訴訟法第267条)が、それでもまとまらなければ、訴訟で決着をつけるということになる。 なお、この借地借家に伴う借賃の増減請求の手続としては、まず、最初に調停を申立て、それでもまとまらない場合にはじめて訴訟で判断してもらうことができることになっているので、いきなり訴訟で争うことはできない(民事調停法第24条の2)。 |
参照条文 | ||
○ 借地借家法第32条(借賃増減請求権) | ||
(1) | 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 | |
(2) | (略) | |
(3) | 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。 | |
○ 民事調停法第24条(宅地建物調停事件・管轄) | ||
宅地又は建物の貸借その他の利用関係の紛争に関する調停事件は、紛争の目的である宅地若しくは建物の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定めるその所在地を管轄する地方裁判所の管轄とする。 | ||
○ 同法第24条の2(地代借賃増減請求事件の調停の前置) | ||
(1) | 借地借家法(平成3年法律第90号)第11条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第32条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。 | |
(2) | (略) | |
○ 同法第16条(調停の成立・効力) | ||
調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。 | ||
○ 同法第24条の3(地代借賃増減請求事件について調停委員会が定める調停条項) | ||
(1) | 前条第1項の請求に係る調停事件については、調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合において、当事者間に調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意(当該調停事件に係る調停の申立ての後にされたものに限る。)があるときは、申立により、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができる。 | |
(2) | 前項の調停条項を調書に記載したときは、調停が成立したものとみなし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。 | |
○ 民事訴訟法第267条(和解調書等の効力) | ||
和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。 | ||
監修者のコメント | |
本ケースにおける質問については、回答に付け加えるべきことはないが、増額請求、減額請求のいずれの場合でも請求する側は、マンションであれば、少なくとも当該マンションの他の部屋の賃料や近隣マンションの相場を、また一戸建であればやはり近隣の同一グレードの建物の賃料相場を調査・提示し、現行賃料が「不相当」であることを証明する作業が不可欠である。 |