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賃貸事例 0804-R-0033
賃料の滞納による明渡し請求と民法改正(旧第621条の削除)との関係

 当社は、賃料の滞納者に対し、できるだけ早い機会に部屋を明渡してもらうようにしているが、ある同業者は、「数年前に法律改正があったので、明渡しの請求が難しくなった」と言っていた。どういうことか。

事実関係
 当社は、5年前に賃貸の媒介と管理を中心に開業した宅建業者であるが、相変らず、入居者の賃料の滞納に苦しめられている。
 そこで最近は、入居者にある程度の滞納が始まった段階で、保証人にも連絡をとり、できるだけ早い機会に部屋を明渡してもらうよう話し合いをしているのであるが、ある同業者の話では、「数年前に法律が改正されてから、明渡しを求めることが難しくなってきた」と言っていた。
 
質問
1.  この同業者の言っている法律改正とは、どのような法律の改正のことか。
2.  この法律改正で、本当に明渡しを求めることが難しくなったのか。
 
回答
1.結 論
(1)  質問1.について — 平成16年の民法改正による第621条(注)の削除のことではないかと考えられる。
  (注) 改正法においては、条文の整理の関係上、第622条が削除されている。
(2)  質問2.について — 民法第621条が削除されたからといって、明渡しを求めることができなくなったとか、難しくなったというようなことはなく、滞納の事実と状況が一定の段階に至れば、従来どおり、明渡しを求めることは可能であると考えられる。
 
2.理由
(1)について
   改正前の民法第621条には、賃借人が破産した場合に、賃貸人または破産管財人から、賃貸借契約の解約の申入れをすることができると定められていた。しかし、これに対し、従来から賃借人の居住保護や、破産財団の財産権としての賃借権の重要性の観点から強い批判があり、また、判例においても、単に賃借人が破産したのみで、賃料の未払いが生じていないような場合にまで、解除を認めることに否定的な態度をとってきた(最判昭和48年10月30日民集27巻9号1289頁)。

 そこで、平成16年の改正で、その第621条が削除され、賃借人の破産の事実のみを理由とした賃貸人からの解約申入れが認められなくなった。したがって、本件の同業者の発言は、この民法改正のことを言っているものと考えられるが、この改正は、あくまでも賃借人が破産した場合のことであって、— つまり、この改正の趣旨は、賃借人が破産した場合であっても、賃料の滞納がない限り、明渡しを求めることはできないということであるから— 本件の賃料の滞納による明渡しの問題とは別のことを言っているものと考えられる。
(2)について
   建物賃貸借において、賃貸人が賃料の滞納を理由に契約を解除するためには、判例上、単に賃料を滞納したとか、何ヵ月滞納したとかいうだけでなく、その実状において、当事者間に信頼関係が破壊されたといえるような実態が必要であるとされている。
 したがって、その明渡しを求める場合の判断の基準となる判例の考え方に変化がない以上、民法第621条の規定が削除されたからといって、賃貸人からの明渡し請求ができなくなるとか、難しくなるというようなことはない。
 
監修者のコメント
 平成17年1月1日施行の破産法の根本的改正に伴い、【回答】のとおり、賃借人破産の場合の破産管戝人または賃貸人からの解約申入権を定めていた民法621条は、合理性を有しないとして削除された。このことは、賃料滞納者に対する解除ないし明渡請求の問題とまったく無関係である。また、その削除による副作用的効果としても、【質問】にあるような現象はみられない。
 そして、他に関係のありそうな法律改正は見当らない。

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