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賃貸事例 0801-R-0024掲載日:2008年1月
賃貸借契約書に署名押印し、賃料も支払ったあとのキャンセル
入居を急ぐ借主の希望で、借主が、契約の始期を定めた賃貸借契約書に署名押印し、予定賃料等の全額を支払ったが、その翌日にキャンセルの申し入れをした。この場合、このキャンセルの申し入れは、信義則に反しないか。契約は、成立しているとはいえないか。
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当社は賃貸の媒介業者であるが、借主が入居を急いでいたので、現地案内のうえ、入居申込書を受領し、予定賃料と敷金等の必要経費を預った。そして、審査用の書類も整ったので、当社は、その書類と合わせて、契約の始期を記載した賃貸借契約書に署名押印をしてもらい、関係する一件書類を貸主に送付するとともに、予定賃料等の全額を貸主の口座に振り込んだ。 ところが、借主は、その翌日に、契約のキャンセルを申し入れてきた。 なお、契約の締結は、貸主の審査が終り次第、賃貸借契約書に貸主が署名押印することにより、自動的になされるようにあらかじめ契約の始期を契約書に記載しておいたが、署名押印の日付欄は空欄にしておいた。 |
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1. |
この場合、借主のキャンセルの申し入れは、信義則に反するものとして許されないと思うが、どうか。 |
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2. |
許されないとすれば、契約は、貸主の審査の終了を停止条件とする条件付契約ないし始期付契約として有効に成立するのではないか。 |
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1.結 論 |
(1) |
質問1.について
(確定的な判断はできないが、一つの考え方としては、)借主からの一件書類の提出が、媒介業者がその一件書類を貸主に郵送する数日前までになされたのであれば、借主からのキャンセルの申し入れは、許されるのではないかと考える。ただし、その一件書類の提出が、貸主への郵送日の直前であったような場合には、借主の行為は、いわゆる「契約締結上の過失」として、信義則上、借主には貸主が被った損害(信頼利益)を賠償する責任が生じると考える。(注) |
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(注)ただし、この「信頼利益」についての損害の額は、本件のような媒介業者経由で契約するようなケースの場合には、極く僅かなものになると考えられるので、貸主にあまり過大な期待を抱かせるのは避けるべきである。 |
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(2) |
質問2.について 仮に、キャンセルの申し出が信義則に反し無効であったとしても、本件の場合に、賃貸借契約が成立することはないと考えられる。 |
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2.理由 |
(1) |
契約は、当事者の合意があって初めて成立する。したがって、本件の場合は、貸主がまだ借主の入居審査もしておらず、賃貸借契約書にも署名押印をしていないのであるから、貸主は、本件借主からの申込みに対し、まだ承諾をしていないと考えるのが相当であり、仮に、借主からのキャンセルの申し出が無効なものであったとしても、それをもって契約が成立すると解すべき根拠はないというべきである。 |
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(2) |
しかし、一方、本件の借主からの申込みが、いわゆる「承諾期間の定めのない申込み」(民法第524条)であることから、申込者(借主)は、その民法の定める「相当な期間」を経過するまでは、申込みの撤回をすることができなかったのではないか、という問題が生じる。 そして、その「相当な期間」の解釈として、その期間が、「貸主がその申込みに対する諾否を決するために必要な考慮時間、および貸主からの承諾の通知が申込者(借主)に到達するのに必要な時間などを加えた時間」(我妻・有泉—コンメンタール「民法」939頁)だとすれば、本件のケースに、その時間を当てはめてみた場合に、「相当な期間」というのは、要は、貸主の側に審査のための一件書類が届いてから、審査・返信(発信)までの時間ということになる。 よって、本件の借主からの撤回の可否は、先の【回答】1.結論(1)で述べたような時間的な関係から判断するのが、貸主・借主双方にとって適当ではないかと考える。 |
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参照条文 |
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○ |
民法第524条(承諾期間の定めのない申込み) |
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承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することはできない。 |
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このケースの解釈は、基本的には【回答】のとおりと考えられるが、その貸主と媒介業者との関係の実態がどうなっているかも関係してくると思われる。従来から、媒介業者がその賃借人を問題ないと判断して入居申込書を受領すれば、貸主が包括的にこれを承諾するという扱いをしてきたというものであれば、契約の成否について微妙である。なぜなら、いまだ賃貸借が成立していないのであれば、予定賃料等を貸主の口座に振り込んだということは何なのか、その合理的説明は必ずしも容易ではないとも言えるからである。
そのキャンセルにより、貸主にどれくらいの損害が生ずるかは分からないが、仮に契約が成立していないとしても、信義則上、契約締結の準備段階に入った者同士は、互いに相手方に不測の損害を与えないようにする義務があるとの理論に基づく「契約締結上の過失」又は「契約の準備段階における過失」の問題として、借主に過失があれば、損害賠償の問題になるであろう。 |
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