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売買事例 1510-B-0205掲載日:2015年10月
差押えの登記がなされている遺産分割協議未了物件の売却の可否
遺産分割協議の完了していない相続物件で、税金の滞納による差押えの登記がなされている物件を売却することはできるか。その物件が、売却をした場合の代金の分配問題で相続人間でもめている場合でも、大丈夫か。
事実関係
当社は、媒介業者であるが、先日相続物件の売却依頼を受けた。
ところが、その物件はまだ遺産分割協議が終っていないために、被相続人名義のままになっており、更に税金の滞納があるために、当局から差押えの登記がなされているうえ、相続人間でその代金の分配を巡ってもめている。
質 問
1. | このような差押えのなされた相続物件でも売却することはできるか。 | |
2. | 本物件には相続人が4人いるが、そのうち1人が代金の配分の問題でもめている。このような場合でも、売却することができるか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 売却代金で、税金の滞納分やその他の追加差押えなどがなされる可能性のある債務が完済できるのであれば、相続人全員の同意がある限り、売却することはできる。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 代金の配分問題でもめていても、売却に出すことを相続人全員が同意しているのであれば、売却することはできる。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | ⑵について 相続物件については、相続の開始(被相続人の死亡)と同時に、原則(注)として相続人が法定相続分に基づいて共同相続をするので(民法第882条、第900条)、遺産分割協議が完了していなくても、相続人全員の共有物件として売却することができる(民法第898条)。またその売却に当たっても、とりあえず法定相続分で共同相続した旨の相続登記をしたうえで、買主に対し所有権移転の登記をすることができるので、現在もめている代金の分配問題については、そのあとでゆっくりと協議をし解決すればよいからである(民法第907条第1項、第909条)。このような遺産分割の方法を「換価分割」といっている。なお、税金の滞納による差押えの登記に関しては、本物件の売却に伴う手付金等で納税すればよく、そうすれば、あとはあらかじめ残金決済までの期間に余裕をもたせておけば、所有権の移転登記の前までには差押えが解除され、登記も抹消されることになるからである。 また、換価分割をする場合、譲渡所得税等の課税に留意する必要がある。 |
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(注) | この原則に対する例外として、民法は推定相続人に一定の事由(欠格事由)がある場合に、当然に相続の資格がないとする「相続欠格」の制度(民法第891条)と、被相続人の意思により遺留分を有する推定相続人の相続権を剥奪する「相続廃除」の制度(民法第892条)を設けている。 | ||
参照条文
○ | 民法第882条(相続開始の原因) | |||
相続は、死亡によって開始する。 | ||||
○ | 民法第891条(相続人の欠格事由) | |||
次に掲げる者は、相続人となることができない。 | ||||
一 | 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 | |||
二 | ~四 (略) | |||
五 | 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者 | |||
○ | 民法第892条(推定相続人の廃除) | |||
遺留分を有する推定相続人(中略)が、被相続人に対して虐待をし、(中略)、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。 | ||||
○ | 民法第898条(共同相続の効力) | |||
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。 | ||||
○ | 民法第900条(法定相続分) | |||
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 | ||||
一 | 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。 | |||
二 | ~四 (略) | |||
○ | 民法第907条(遺産の分割の協議又は審判等) | |||
① | 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。 | |||
② | 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。 | |||
③ | (略) | |||
○ | 民法第909条(遺産分割の効力) | |||
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼって効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。 |
監修者のコメント
差押えがなされている物件でも売却自体はできるが、差押え登記のあとの売買等の処分は、その執行手続きに対抗できないので、媒介に当たり買主に対し、差押え登記の存在とその効果について十分に説明することが必要である。このようなケースで最も注意すべきことは、売却代金で債務を弁済できるのは確実で差押え登記も問題なく抹消できるからと考えて、重要事項説明書への記載を省略してしまうことである。
本ケースは、売却の前に差押え登記を抹消する手立てを講ずることが望ましい。