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賃貸事例 0703-R-0003掲載日:2007年3月
店舗・オフィスビル等事業用建物賃貸借における原状回復特約の効力
事実関係 | |
当社は、近いうちに都心部に進出し、居住用のほか店舗・オフィスビルなどの事業用の建物賃貸借も含めて行えるよう事業の拡大を考えている。 |
質問 | |
居住用の建物賃貸借におけるいわゆる「原状回復特約」の有効性については、平成17年に最高裁の判断が出て、今後は借主の通常使用に伴う損耗分を借主に負担させる特約をすることが難しくなってきているような気がしているが、店舗・オフィスビルなどの事業用の建物賃貸借についても、同様に考えるべきか。 |
回答 | |
1.結論 (最近の判例の動向を見る限り)必ずしも同じように考える必要はないと考えられる。ただ、その最高裁判決は、通常損耗分について借主に負担させるためには、その旨の明確な特約がなされたと認められる場合でなければならないとしているのであり、その考え方自体は、事業用建物の賃貸借についても当てはまる。 |
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2.理由 民法における借主の通常使用に伴う損耗分についての原状回復義務の考え方は、事業用の建物であっても、居住用の建物の場合と同じように貸主負担とするのが原則である。つまり、借主の通常使用に伴う損耗分は、賃料に含まれているという考え方である。 しかし、この民法の考え方は、この民法の規定が強行法規でないだけに、いつでも契約当事者の合意により、これと異なる定め(特約)をすることができるようになっている。そのため、実際の店舗・オフィスビル等の建物賃貸借契約の内容を見ると、自ら工事をした造作の撤去はもとより、既存の床板や天井パネル等についても、すべて新しいものに取り替えるといったかたちの特約が定められていることが多い(特に「店舗」の場合)。したがって、その意味では、事業用の建物賃貸借においては、通常使用の損耗分を借主負担とする原状回復特約が当然のように行われているということがいえる。 そしてさらに、消費者契約法との関係においても、法人はもちろん、事業として、または事業のために当事者となる個人は「消費者」でなく「事業者」に該当するため、店舗・オフィスビルの借主はすべて「事業者」であることから、同法の適用はない。つまり、対等な事業者間の事業用建物賃貸借においては、借主が原状回復特約を拒否すればその分の賃料が高くなるし、敷引特約(保証金償却)を定めなければその分の賃料が上がるということで当事者間の話し合いが行われているのである。 なお、事業用建物に関連し、オフィスビルの建物賃貸借契約において「自然損耗・磨耗も原状回復の対象とするという特約も有効である。」とする判例もある(東京高判平成12年12月27日判夕1095号176頁)。また、特約の成立に関し、営業用建物について、最高裁判決の理由づけをそのまま踏襲した判例も出ている(大阪高裁平成18年5月23日Lexis判例速報 13・74頁)。 |
参照判例 | |
○ 東京高判平成12年12月27日(要旨) 一般にオフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取替える、場合によっては天井を塗り替えることまで原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いことが認められる。オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によって異なり、損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当であることが、かかる特約がなされる理由である。もしそうしない場合には右のような原状回復費用は、自ずから賃料の額に反映し、賃料額の高騰に繋がるだけでなく、賃借人が入居している期間は専ら賃借人側の事情に左右され、賃貸人においてこれを予測することは困難であるため、適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能であることから、原状回復費用を賃料に含めないで、賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまで原状回復させる義務を負わせることは、経済的にも合理性があると考える |
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○ 大阪高判平成18年5月23日(要旨) 営業用建物の賃貸借契約において、賃貸借終了時に「賃借人は本件貸室内の物品等一切を搬出し、賃借人の設置した内装造作諸設備を撤去し、本件貸室を原状に修復して賃貸人に明け渡す」との契約条項は、賃借人が通常損耗分の原状回復費用を負担する旨の特約とはいえない。建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課することになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に意識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であるが、本件契約条項は、これに当たらない。 |
監修者のコメント | |
平成17年12月16日最高裁判決が、結論的に賃借人を勝たせたために、通常損耗分の原状回復費用を賃借人に負担させることはできなくなったと誤解している向きが一部にあるが、前記「賃貸事例2」で説明したとおり、そのような趣旨ではない。 同判例は、その事件については、賃借人負担の「特約」が成立していないと認定されたのであり、特約が成立していなければ通常損耗分を賃借人に負担させられないことは、店舗・オフィスビルでも従来から同じである。 居住用建物を個人が借りる場合と、個人でも法人でも店舗・オフィスビルを借りる場合と大きく異なるのは、消費者契約法の適用・不適用である。後者の場合は、消費者契約法の適用がないので、同法により無効と解される問題はない。 |
より詳しく学ぶための関連リンク
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「原状回復義務」