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売買事例 1506-B-0199掲載日:2015年6月
経年劣化によるものを除くという瑕疵担保免責特約の有効性等
築後30年を経過した賃貸マンションの一棟売りの媒介にあたり、「売主の瑕疵担保責任の期間は6か月間とする。ただし、経年劣化によるものを除く。」という特約を定めた。ところが、引渡し後3か月目に床下の水道管から水漏れ事故が発生した。
売主は、「水道管からの水漏れは経年劣化によるものであるから、売主に責任はない」と主張し、買主は、「経年劣化によるものを除く。」という特約の趣旨は、買主が目で見て判るような部分の劣化によるものを除くという趣旨であって、隠れた部分の劣化は含まれないと主張しているが、いずれの主張が正しいか。
事実関係
築後30年を経過した賃貸マンションの1棟売りの媒介にあたり、「売主の瑕疵担保責任の期間は6か月間とする。ただし、経年劣化によるものを除く。」という特約を定めた。ところが、物件の引渡し後3か月目に床下の水道管から階下への水漏れ事故が発生した。調べてみると、水道管のジョイント部分からの水漏れであったが、売主がこの30年間に管の更新をしていなかったため、かなり老朽化しており、水漏れの状況と床下への水のたまり具合、階下への浸透・落下の状況からみて、数か月前(契約時)からの水漏れであることが認められた。
質 問
1. | 本件の水漏れ事故に対し、買主が売主の瑕疵担保責任を追及したところ、売主は、「これは経年劣化による水漏れであるから、売主に責任はない」と主張しているが、この主張は正しいか。 | |
2. | 買主は、特約に定められている「ただし、経年劣化によるものを除く。」という趣旨は、買主が目で見て判るような表に現れている部分の劣化については売主は責任を負わないという趣旨であって、隠れた部分の劣化については含まれないと主張しているが、この主張は正しいか。 | |
3. | 買主は更に、売主が本件のような築後30年も経過している物件を売る場合には、少なくとも引渡し前に雨漏りや水漏れについての点検位はすべきであるにもかかわらず、今までの点検記録の交付はおろか、直前の点検もしていなかったことは、一種の債務不履行であり、仮に債務不履行でないとしても、点検をしていないという事実についての告知義務に違反するのではないかと主張しているが、この主張は正しいか。 |
回答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 正しくない。 | |
⑵ | 質問2.について ― 必ずしも正しいとはいえない。 | |
⑶ | 質問2.について ― 意見としては正しいが、法的な主張としては、必ずしも正しいとはいえない。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | ⑵について 本件の水道管からの漏水は、水道管の接合部の劣化による機能停止(=欠陥)によるものと考えられるので、その限りにおいては確かに経年劣化が原因と考えられるが、そのこと(床下への漏水、階下への水道水の落下等)によって取引の対象になっている建物が通常有すべき住まいとしての機能を果たすことができないということも事実である。 そのような隠れた部分にある欠陥(=瑕疵)についての責任を誰が負担するのかというのが、売主の瑕疵担保責任の問題なのである。つまり、瑕疵というのは、その原因が劣化であろうと手抜きであろうと、その原因のいかんを問わず、その取引された物件が「通常有すべき品質・性能を有しているかどうか」で判断され、有していない場合にはその責任は売主がもつというのが売主の瑕疵担保責任の規定なのである(民法第570条)。したがって、単に「瑕疵がある」という場合は、表に現れている瑕疵もあるし、本件のように隠れている部分に瑕疵がある場合もあるということである。 ところが、表に現れている瑕疵は、それが当事者にある程度判ることから、それを修理して取引することもできるし、現状のまま値段を下げて取引することもできるが、隠れた瑕疵については誰にもその存在が判らないので、民法はそのような場合にどうするのかということで、その第570条において、売主がその責任を負うと定めているのである。その方が公平の理念に合致するからであるが、そのことからも、今回の当事者が定めた特約の趣旨は、その劣化状況が表に現れていて、「欠陥」があるかどうか判るようなものは買主に過失があるので売主は責任を負わないが、劣化状況が表にあらわれていても、「欠陥」があるかどうか隠れていて判らないものは、すべて「隠れた劣化」として、その劣化による機能停止=欠陥が民法第570条でいう「瑕疵」にあたるかどうか、すなわち「その物が通常有すべき品質・性能を有しているかどうか」で判断され、その民法第570条でいう「瑕疵」にあたるものについては売主が責任を負うという趣旨に解するのが当事者の意思に合致するものと解されるからである。 |
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⑶ | について 築年数が経っている建物の場合には、往々にして設備や配管の劣化が問題になる。しかし、かといって、すべての売主にその設備等の状況を点検し、その状況を買主に告知する義務があるかというと、そこまでの義務はないといわざるを得ない。なぜならば、一般の取引においては、建物が古い場合には古いなりの価格設定がなされるため、その意味において、買主には代金に見合った物件が引渡しされることになるので、それを債務不履行とか告知義務違反ということはできないからである。 ただ、それらの設備等が古く、近いうちに機能停止に至ることが判っているとか、容易に判る場合には、それらの設備等の重要性のいかんによっては、その状況についての告知義務が生じる可能性がないとはいえない。 |
参照条文
○ | 民法第570条(売主の瑕疵担保責任) | ||
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 |
監修者のコメント
本件の瑕疵担保責任の特約の「ただし、経年劣化のものを除く。」という定めは、二重の意味で不適切である。1つは、売主、買主がそれぞれ主張するような意味に解釈できることについて一般素人の考えだからとして無視できない。なぜなら、契約の意味解釈の第一義的な基準は当事者の意思内容だからである。もう1つの不適切な理由は、「売主の瑕疵担保責任」の期間の6か月の起算点は、おそらく「引渡しの日」であろうが、それが不明確なうえ、それよりも、もっと重大な争点となり得るのは、そのただし書の意味である。瑕疵担保責任の期間は6か月とするが、「その期間中でもそもそも経年劣化によるものは負わない」という意味と把えることができると共に民法の原則責任期間すなわち買主が事実を知った日から1年間を(おそらく引渡しの日)から6か月に短縮するが「経年劣化によるものは短縮せず、民法の原則どおりとする」と把えることも可能であるからである。
本件の水漏れは、事実関係を見る限り「経年劣化」によるものと思われるが、本件のような現象を当初から買主が容認して買うことは通常考えられないので、媒介業者として、その用語の使用と買主に対するその説明が不適切、不十分なケースと言わざるを得ない。