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売買事例 1506-B-0198掲載日:2015年6月
買主の違約に伴う売主からの違約金の請求と手付没収の可否
不動産の売買において、違約金の額が少なく、かつ、手付解除の期限が過ぎている場合に買主が違約をしたときは、売主は違約金の請求のほかに、手付金の没収ができるか。
違約をした者からの契約解除はできるか。
事実関係
当社は媒介業者であるが、先日当社が媒介した土地の売主(一般の個人)から、「買主が違約したので、約定の違約金の請求のほかに、手付金を没収したいができるか」という相談があった。その理由は、1つは違約金の額が少なかった(売買代金の10%)からであるが、もう一つの理由は、本件の取引がすでに手付解除の期限を過ぎていたので、売主から契約を解除しても、買主に対し手付金(の倍額)を返還する義務がないからだというのである。
しかしそうは言いながらも、「買主が先に違約金を支払い、契約を解除すると言ってきたときは、手付金の没収ができなくなるのだろうか。そもそも、そのような契約に違反した者からの契約解除というのはできるのだろうか」という相談もしてきた。
質 問
1. | 本件の取引で、売主は買主に対し、違約金の請求のほかに、手付金の没収ができるか。 | |
2. | そもそも、契約に違反した者が契約を解除することができるか。 |
回答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― できない。 | |
⑵ | 質問2.について ― できない。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | について 売買契約において当事者が違約金を定めたときは、その違約金の定めは、損害賠償額を予定したものと推定される(民法第420条第3項)。したがって、当事者間に特段の事情がない限り、その契約で定められた違約金の額が損害賠償額とされ(同条第1項)、本問にあるような更なる手付金の没収はできないと解される(大判明治40年2月2日民録13輯36頁)。 |
|
⑵ | について 売買契約における解除権の発生は、瑕疵担保責任に基づくものもあるが、一般的には手付解除などの約定解除権に基づくものと、本件のような当事者の債務不履行による法定解除権に基づくものに大別される。そして、その債務不履行に基づく解除権は、債務者(本件の買主)の債務不履行があって初めて債権者(本件の売主)に発生するものであるから(民法第541条~第543条)、債務者が自らの債務不履行によって自らが解除権を取得するということは、その違約後の解除契約(合意解除)によって債務者(違約者)が解除権を取得する場合以外には理論的にあり得ないことだからである。 |
参照条文
○ | 民法第420条(賠償額の予定) | ||
① | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。 | ||
② | (略) | ||
③ | 違約金は、賠償額の予定と推定する。 | ||
○ | 民法第541条(履行遅滞等による解除権) | ||
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 | |||
○ | 民法第542条(定期行為の履行遅滞による解除権) | ||
(略) | |||
○ | 民法第543条(履行不能による解除権) | ||
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない |
監修者のコメント
本ケースの売主のいう理由の一つである「すでに手付解除の期限を過ぎていたので、売主から契約を解除しても、買主に対し手付金(の倍額)を返還する義務がないから…」という前提自体が誤っている。手付解除の期限を過ぎているのだから、売主からの手付倍額償還による解除も、もはや問題とならない。となると売主からの解除は、相手方(買主)の債務不履行に基づく解除ということになり、違約金は、まさしく、その場合の損害賠償の予定と推定されることになる。
なお、契約に違反した者からの契約解除は認められないのは回答のとおりであるが、自らが違約になってしまうことが明白であっても、手付解除の期限内であれば、買主は手付金の放棄による「手付解除」ができることはもちろんである。