公益財団法人不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター) > 不動産相談 > 売買 > 抵当権の仮登記付賃貸マンションの媒介時の重要事項説明

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売買事例 1504-B-0194
抵当権の仮登記付賃貸マンションの媒介時の重要事項説明

 抵当権の仮登記がなされている賃貸マンションについて、媒介業者は媒介時にどのような重要事項説明をすべきか。
 そもそも抵当権の仮登記によって競売の申立てができるか。その仮登記が本登記になったあとに本物件が競売に付された場合は、本登記前から入居している賃借人は競落人に対抗できるか。債務者が本登記に応じなかった場合、仮登記権者は本物件を競売に付すことができるか。

事実関係

 当社は媒介業者であるが、先日ある賃貸マンションのオーナーから、竣工したばかりの賃貸マンションの賃貸借の媒介を依頼された。
 そこで、早速当該賃貸マンションの登記記録を入手したところ、そのマンションにはある会社の 抵当権の仮登記がなされていた。その事情をオーナーに聞いたところ、仮登記権者は当該マンションの建築工事を請負った建設会社で、工事上のトラブルによる工事代金の未払分を担保するために工事会社が抵当権の仮登記権者となり、その間に話し合いをすることにしたが、トラブルが決着しないまま建物が竣工し今日に至っているということであった。しかし、このマンションの建設にあたっては、オーナーがすべて自己資金で賄ったために、本物件には本件仮登記以外の担保権などの登記は一切なされていない。

質 問

1.  この賃貸マンションが、抵当権の仮登記によって競売に付されることはあるか。
2.  この抵当権の仮登記が本登記になり、本物件が競売に付された場合、本登記前に入居している賃借人は競落人に賃借権を対抗することができるか。
3.  債務者(オーナー)が本登記に応じなかった場合、本物件が競売に付されることはあるか。
4.  以上の問題点を踏まえ、当社はその抵当権の仮登記がなされていることについて、媒介時にどのような重要事項説明をすべきか。

回答

1.  結 論
 質問1.について ― 抵当権の仮登記によって競売に付されることはない。
 質問2.について ― 対抗することができない。
 質問3.について ― 債務者(オーナー)が本登記に応じる義務があるにもかかわらず応じない場合には、後日、競売に付されることがある。
 質問4.について ― 上記質問1~3のすべてに対応する説明としては、下記のように行うことが望ましいと考えられるが、質問3に関する競売の申立については、債務者が本登記に応じる義務があるにもかかわらず応じない場合の申立であるから、債権者(仮登記権者)としては判決を得て本登記を行い競売を申立てるか、強制執行(強制競売)の手続によって競売に入るかのいずれかになる。したがってそのような事態が予想されない段階での賃貸借の媒介においては、下記説明文の後段(「また」以下)の説明までは行う必要はないといえよう。
(重要事項説明書:記載例)
 「本物件には○○会社を権利者とする抵当権の仮登記がなされています。したがって、賃借人はこの仮登記が本登記になる前に本物件の引渡しを受けた場合には競落人に対し賃借権を対抗することができません。その場合には、本物件の競落後に競落人と賃借人との間で新たに賃貸借契約が締結される場合などを除き、競落人が本物件の所有権を取得した後6か月以内に本物件を競落人に明け渡さなければなりません。
 また、抵当権の登記が仮登記のままであっても、仮登記権者が強制競売の手続により本物件を競売に付した場合には、その差押えの登記後に本物件の引渡しを受けた賃借人は、本物件の競落後に競落人と賃借人との間で新たに賃貸借契約が締結される場合などを除き、競落人が本物件の所有権を取得した後は直ちに本物件を競落人に明け渡さなければなりません。」
2.  理 由
⑴〜&#9335について
 不動産の競売手続は、担保権の実行によるものと強制競売によるものとに分かれる。そして、前者は主に抵当権の実行というかたちで多く行われ、その抵当権の登記は「本登記」であることが要求されるが(民事執行法第181条第1項第3号)、何らかの事情で「本登記」ができない場合には、その抵当権の存在を証明する確定判決を得て競売の申立をしなければならない(同第1号・第2号)。
 しかし、それでもそれらの登記や確定判決等が得られない場合には、債権者としては、そのもとになっている債権の存在を証明する確定判決等(債務名義)を得て、その債権回収のための強制執行の手続をとらざるを得ない。これが「強制競売」といわれているものである(民事執行法第22条、第43条以下)。
 また、抵当権の仮登記が「本登記」になった場合には、登記の対抗力が仮登記の日までさかのぼるので(不動産登記法第106条)、他の抵当権との優劣関係については仮登記の日が基準になるのはもちろんのこと、公租公課との優劣関係についても、その仮登記の日と法定納期限等との前後関係によるものとされており(国税徴収法第16条、民法第177条)、また賃借権との対抗関係についても、その仮登記の日と引渡しの日との先後により優劣が決まるとされている(競売の場合:大判昭和4年3月1日民集8巻152頁、公売の場合:大判昭和18年5月17日民集22巻373頁)。

参照条文

 民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
 不動産登記法第106条(仮登記に基づく本登記の順位)
 仮登記に基づいて本登記(仮登記がされた後、これと同一の不動産についてされる同一の権利についての権利に関する登記であって、当該不動産に係る登記記録に当該仮登記に基づく登記であることが記録されているものをいう。以下同じ。)をした場合は、当該本登記の順位は、当該仮登記の順位による。
 民事執行法第22条(債務名義)
 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
 一  確定判決
 二~六 (略)
 七  確定判決と同一の効力を有するもの(以下、略)
 同法第43条(不動産執行の方法)
 不動産(登記することができない土地の定着物を除く。以下この節において同じ。)に対する強制執行(以下「不動産執行」という。)は、強制競売又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。
 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行については、不動産の共有持分、登記された地上権及び永小作権並びにこれらの権利の共有持分は、不動産とみなす。
 同法第181条(不動産競売の要件等)
 第43条第1項に規定する不動産(同条第2項の規定により不動産とみなされるものを含む。以下「不動産」という。)を目的とする担保権の実行としての競売(以下この章において「不動産競売」という。)は、次に掲げる文書が提出されたときに限り開始する。
 担保権の存在を証する確定判決若しくは家事審判法(昭和22年法律第152号)第15条の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
 担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
 担保権の登記(仮登記を除く。)のされている登記簿の謄本
 一般の先取特権にあつては、その存在を証する文書
〜④ (略)
 国税徴収法第16条(法定納期限以前に設定された抵当権の優先)
 納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。

監修者のコメント

 本件のような物件の重要事項説明において、特に気をつけなければならないのは、そのような登記が存在することを説明すれば足りると考えてしまうことである。説明の相手方が弁護士や法律の専門家である場合は別として、その登記の存在によって、結局はどういうことになるのか、という法的効果まで説明する必要がある。それは、媒介受任者の善管注意義務からもたらされるものであり、回答の記載例にあるように詳しく説明することにより説明義務を尽くしたことになる。

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