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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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売買事例 0805-B-0065
「手付倍返し」をした売主に対する残金決済時の報酬請求

 媒介手数料の支払を、売買契約締結時に2分の1、残金決済時に2分の1とする媒介契約を締結した場合、手付の倍返しによる解除をした売主に対し、残金時に受領する予定の残りの媒介手数料を請求することができるか。

事実関係
 ある媒介業者が、売主との間で、売買契約が成立した場合の媒介手数料の支払比率を、売買契約締結時に2分の1、残金決済時に2分の1とする媒介契約を締結し、その後売買契約を成立させたが、間もなく売主が手付倍返しにより売買契約を解除した。
 なお、売買契約を解除した理由は、売主の一方的な事情によるもので、媒介業者には何らの手落ちもない。
質問
1.  このような場合、媒介業者は、手付の倍返しを行った売主からは、媒介手数料の残りの半金を受領することはできないという意見があるが、本当か。
2.  手付の倍額を受領した買主からは、媒介手数料の残りの半金を受領することができるという意見については、どうか。
3.  買主から、媒介手数料の残りの半金を受領できるとすると、もし、手付の額が少額なために、買主が受け取った金額(実質的に売主が負担した金額=手付金相当額)より媒介手数料の方が高額の場合には、買主はいわゆる「持ち出し」になるが、それでも買主から残りの半金を受領できるのか。その手付の額が、媒介手数料の半額にも満たない額であった場合には、完全な「持ち出し」になるが、それでも買主から受領できるのか。
回答
 
1. 結論
(1)  質問1.について — 本当ではない。媒介業者は、原則として、残りの媒介手数料の全額を受領できる。
(2)  質問2.について — 手付の倍額を受領した買主からも同様に、原則として、残りの媒介手数料の全額を受領することができる。
(3)  質問3.について — 当事者間の約定で授受される手付金の問題と、媒介手数料の問題は別個の問題であるから、媒介業者は、手付金の額いかんにかかわらず、原則として、媒介手数料の全額を受領することができる。
 しかし、現実の問題として、【質問】にあるような「持ち出し」になるようなケースの場合には、その買主が実質的に売主から受領した手付金相当額を限度として受領するなり、残りの半金の手数料の請求を放棄するなりして、円満処理を図ったうえで、次の売買に向けて努力していくというのも、ひとつの方法ではないかと考える。
 
2. 理由
(1) 媒介手数料を売買契約締結時2分の1、残金時2分の1とする特約は、昭和41年の旧建設省時代の行政指導(昭和41年11月21日建計政発117号宅地政策課長回答)により、以来、業界で慣行的に行われているものと推察される。
(2)  しかし、この特約は、一般に、売買契約が履行されることを報酬請求権の発生要件とするものではなく、単なる報酬の支払時期に関する特約と解されている。
したがって、売買契約が手付解除や契約違反等により、途中で解除されても、報酬請求権が発生しないということではなく、報酬請求権は売買契約の成立時に発生しているが、最終決済が行われないことが確定した時に、残りの半額の報酬を請求することができると解されている(東京地判昭和56年1月30日判時1014号88頁。同趣旨のものとして、東京地判昭和56年6月24日判時1022号85頁、大阪高判昭和56年10月30日判時1043号123頁ほか)。
(3)  なお、【質問】1.にあるような手付の倍返し、あるいは放棄をした者に対しては、それらの者がすでにペナルティ的な支出をしているために、残りの半分の手数料を請求することができないというような考え方があるとしたら、その考え方には賛成し難い。なぜならば、それらの者は、自らの意思で(自らの利益のために)手付の倍返し等を行ったのであるから、媒介業者はむしろ被害者というべきであり、被害者である媒介業者には、当然残りの手数料を請求する権利があると考えるべきだからである。
 
監修者のコメント
 媒介報酬請求権は、(1)媒介契約の成立 (2)媒介の目的である売買や賃貸借の契約の成立 (3)媒介業者の行為と売買契約等の成立との間の因果関係の存在が認められることにより、約定報酬全額についての請求権が発生する。【回答】のように、契約締結時に半額、履行完了時に半額というのは、その時にそれぞれ半額の請求権が発生するのではなく、支払時期に関する特約と解されている。そして、一旦成立した報酬請求権は、当事者の手付解除によって影響を受けないのが原則である。もっとも、事案によっては、当然に約定報酬額を請求できるのではないという裁判例もないわけではないが、法理論としては【回答】のとおりである。
 なお、持ち出しとなる場合、帰責原因のない当事者には、一定の考慮をすることが適切である。なぜなら、履行に至らなかった場合は、履行完了まで面倒をみることを前提にする通常のケースに比べ、媒介業者の事務量はかなり減るからである。

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