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売買事例 0804-B-0061
大深度地下使用に伴う不動産取引上の問題点

 神戸市で行っている上水道の整備事業が、大深度地下使用法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の適用第1号となったとの市のホームページを見た。ついては、大深度地下使用法と不動産取引上のいくつかの問題点について確認したい。

事実関係
 当社は、兵庫県で宅地建物取引業を営んでいる者であるが、先日、神戸市のホームページを見ていたら、芦屋市境から奥平野浄水場までの地下空間の一部(奥平野工区)を、大深度地下使用法(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)に基づいて、権利者への補償を行うことなく使用することができるという神戸市の公共事業(大容量送水管整備事業=上水道整備事業)のことが書かれてあった。そして、その神戸市の工事が、この大深度地下使用法の全国での適用第1号だということも書かれていた。
質問
 
1.  この「大深度地下使用法」という法律は、道路や地下鉄、新幹線などのトンネル工事にも適用されるのか。
2.  「大深度」というのは、ホームページには、下記の「(1)又は(2)のいずれか深い方以上の深さの地下」と書かれているが、これを図示すると、どのようになるのか。
(1) 建築物の地下室及びその建設の用に通常供されることがない地下の深さとして政令で定める深さ(地表から40m)
(2) 当該地下の使用をしようとする地点において通常の建築物の基礎杭を支持することができる地盤(支持地盤)として政令で定めるもののうち最も浅い部分の深さに政令で定める距離(10m)を加えた深さ
 
3.  この大深度地下の空間には、どのような権利が発生し、いつからその効力が生じるのか。また、その権利は、登記されるのか。
4.  このような大深度地下に道路や鉄道が通るようになると、地下40m程度の深さでは、地上での震動の発生や、将来の地下使用の際に支障が出るのではないかと考えられるが、そのような場合にも、補償はされないということか。
5.  将来の不動産取引で、大深度地下の使用予定地や使用地を媒介する場合、物件調査はどのように行うのか。また、重要事項説明書にはどのようなことを書くことになるのか。
回答
 
(1)  質問1.について — 適用される(大深度地下使用法第4条)。
(2)  質問2.について — 下図のようになる。つまり、支持地盤のない土地については、地表から40m以深のことをいうのであるが(実際には、そのような土地は少ない。)、支持地盤のある土地については、その支持地盤の上面から10m以深または地表から40mのところにある支持地盤以深のいずれか深い方の地下が「大深度地下」ということになる(図中の斜線部分以深)。
事実関
(3)  質問3.について — 大深度地下法には、大深度地下を使用する権利についての特別な定義規定はなく、単に第10条において、「事業者は、対象地域において、この章の定めるところに従い、使用の認可を受けて、当該事業者が施行する事業のために大深度地下を使用することができる。」と定められているだけである。したがって、国土交通省作成のパンフレットにおいても、「使用権」「使用権の設定」という用語が用いられている(国土交通省都市・地域整備局大都市圏整備課大深度地下利用企画室発行)。
つまり、大深度地下の使用権については、同法によれば、大深度地下の使用を申請した者(公共の利益となる事業を行おうとする者=国・地方公共団体等)に対し、認可権者である国土交通大臣または都道府県知事がその使用を認可することにより生じるもので、その効力は、認可の告示があった日から生じる(申請者が権利を取得する)とされている(同法第10条、第11条、第21条第4項、第25条)。
なお、この「使用権」は、不動産登記法に規定されていない権利であるため、登記することはできないと解されている(不動産登記法第3条、国土交通省、神戸市)。
(4)  質問4.について — 大深度地下使用法は、地権者の将来の地下使用に対しては一定の配慮をしているが、工事完了後の震動等の発生による損害の賠償については、何らの規定も設けていない。
つまり、同法は、土地の所有者等に生じる損失として、事業区域(地下空間)の明渡しによる損失の(注)ほか、事業者が大深度地下を使用することによって、その行使が制限されるために生じる具体的な損失については、使用権設定後、告示の日から1年以内に限り、補償を請求することができるものと定めている(同法第31条、第32条、第37条)が、それ以外の補償等に関する規定は何ら設けていない。したがって、工事完了後に、震動等の具体的な損害が発生した場合には、同法以外の法律によって、事業者に賠償を求めていくことになるものと考えられる。
  (注)   事業区域の明渡しによる損失とは、事業区域(=地下空間)に物件を占有している者がいる場合に、認可事業者が、その占有者に物件の引渡しまたは移転を求めるために生じる損失のこと(同法第31条第1項、第32条第1項)。
(5)  質問5.について — 大深度地下の使用を認可する際の事前の手続として、事業区域に係る土地およびその近地の住民に対する説明会が開かれ、認可されたときは、その告示が官報または公報によってなされ、さらに、事業区域を表示する図面等が縦覧に供されるほか、認可に関する登録簿も作成され、閲覧に供されるとともに、その写しの請求もできるようになっている(同法第19条〜第22条)。したがって、物件調査の際には、それらの資料を閲覧したり、入手することにより、正確な情報を得ることができる。
なお、神戸市の場合には、不動産取引に関連する関係部署にも、図面等の資料が備え置かれるとのことであるが(神戸市水道局計画課)、具体的な重要事項説明書への記載内容については、ひとつの例として、たとえば、認可前であれば、その関係部署で入手した図面等を添付したうえで、おおむね次のような内容を記載することになるものと考えられる。
 「別添図面記載のとおり、本土地の地下○○m〜○○mの位置には、大深度地下使用法に基づく事業として、神戸市水道局の大容量送水管(口径○○○?の△△△管)が埋設される計画があります(工事予定期間:平成○○年○月○日〜平成○○年○月○日)。
したがって、本土地の使用にあたっては、同法第25条の規定により、本件水道事業に支障を及ぼす限度において、その使用が制限されますが、当該事業区域を自ら使用する計画がある場合には、同法第37条の規定により、本件大深度地下使用の認可の告示があった後、告示の日から1年以内に限り、認可事業者に対し、その損失の補償を請求することができます。
 
参照条文
 
○  大深度地下の公共的使用に関する特別措置法第1条(目的)
 この法律は、公共の利益となる事業による大深度地下の使用に関し、その要件、手続等について特別の措置を講ずることにより、当該事業の円滑な遂行と大深度地下の適正かつ合理的な利用を図ることを目的とする。
 
○  同法第4条(対象事業)
この法律による特別の措置は、次に掲げる事業について講じられるものとする。
一 道路法(中略)による道路に関する事業
河川法(中略)が適用され、若しくは準用される河川又はこれらの河川に治水若しくは利水の目的をもって設置する水路、貯水池その他の施設に関する事業
三(略)
鉄道事業法(中略)第7条第1項に規定する鉄道事業者(中略)が一般の需要に応ずる鉄道事業の用に供する施設に関する事業
五〜七(略)
電気事業法(中略)による一般電気事業、卸電気事業又は特定電気事業の用に供する電気工作物に関する事業
九 ガス事業法(中略)によるガス工作物に関する事業
水道法(中略)による水道事業若しくは水道用水供給事業、工業用水道事業法(中略)による工業用水道事業又は下水道法(中略)による公共下水道、流域下水道若しくは都市下水路の用に供する施設に関する事業
十一〜十三(略)
 
○  同法第25条(使用の認可の効果)
 第21条第1項の告示があったときは、当該告示の日において、認可事業者は、当該告示に係る使用の期間中事業区域を使用する権利を取得し、当該事業区域に係る土地に関するその他の権利は、認可事業者による事業区域の使用を妨げ、又は当該告示に係る施設若しくは工作物の耐力及び事業区域の位置からみて認可事業者による事業区域の使用に支障を及ぼす限度においてその行使を制限される。
 
○  同法第37条(その他の損失の補償)
(1)  第32条第1項に規定する損失(事業区域の明渡しに伴う損失(前出(注)参照))のほか、第25条の規定による権利の行使の制限によって具体的な損失が生じたときは、当該損失を受けた者は、第21条第1項の規定による告示の日から1年以内に限り、認可事業者に対し、その損失の補償を請求することができる。
(2)(略)
 
監修者のコメント

 大深度地下使用法の対象空間は、通常は利用されない地下空間であり、同法の深さの規定からみて、一般の土地所有者がそのために使用の制限を受けることはほとんど考えられない。したがって、宅建業法上、重要事項として説明すべき法令上の制限(同法施行令第3条)にも含まれていない。
 また、質問4.にあるような事態も生じないと思われるが、万一、もしそのようなことがあれば、一般不法行為(民法第709条)あるいは国家賠償法の問題にはなり得る。

より詳しく学ぶための関連リンク

・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「地盤と基礎」

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