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売買事例 1406-B-0181掲載日:2014年6月
買主が契約を無条件解除できない買い換え特約の問題点とその対応
当社は売主側の媒介業者であるが、買主側の媒介業者から、ローン特約と買い換え特約の2つの特約が入る買主がいるという連絡を受けたので、その旨を売主に伝えたところ、売主から、買主が手持ち物件を所定の期日までに売却できなかったときは契約を無条件解除できるというのであれば、売主も、その間に明渡しの準備のために住まいの移転をし空き家にするかも知れないので、その場合には、それらの費用を売主の損害として買主が賠償するという特約(いわゆる特約の特約)を定めて欲しいと言ってきた。
このような、買主が売買契約を無条件で解除することができないケースもあり得るという買い換え特約は、宅建業法上問題がないか。問題がないとした場合、このような特約付きの売買を媒介する際の注意点はどのような点か。
事実関係
当社は、このたび売主からの依頼で土地建物の売買の媒介をすることになったが、買主側の媒介業者から、ローン特約と買い換え特約の2つの特約が入るが、売買代金などの売主側の条件はすべて呑むという買主が見つかったという連絡が入った。
ところが、そのことを売主に伝えたところ、売主はローン特約はともかく、買い換え特約については、買主の手持物件が所定の期日までに売れない場合には買主が契約を無条件で解除できるというのであれば、逆に売主としても、物件の明渡しとの関係で、買主の手持物件が売却できるまでの間に、住居を仮住まい(賃貸物件)などに移転しなければならない場合もあるので、そのような場合には、買主の買い換え特約による契約解除によって売主に生じた損害(仮住まいへの移転費用や家賃など)を買主が賠償するという特約(いわゆる特約の特約)を定めて欲しいと言ってきた。
なお、本件の買い換えはいわゆる「買い先行」のため、手付金なしで売買契約を締結したいというのが、買主の条件である。
質問
1. | このような、契約の無条件解除ができないケースが生じる買い換え特約は、宅建業法上問題がないか。 | |
2. | もし問題がないとした場合、このような買い換え特約を定めた売買契約を媒介する際の注意点はどのような点か。 |
回答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 問題はない。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 本件の買い換えをあくまでも「買い先行」で行うのであれば、次のような点に注意が必要であろう。 | ||
① | 買主の手持物件の売却が所定の期日までに行われるよう、買主側の媒介業者および買主に対し、売却価額その他の面でできるだけの配慮をしてもらうこと。 | ||
② | 売主についても、できるだけ買主の手持物件の売却後に住まいの移転が行われるよう配慮してもらうとともに、貴社においても、買主の手持物件の売却状況について売主への情報提供を怠らないこと。 | ||
③ | そのためにも、売主および買いの媒介業者に対し、買い換え特約に基づく売買契約の解除の時期(買主の手持物件の売却期限)や残金決済の期日に余裕をもたせるように配慮してもらうこと。 | ||
④ | 売主の住まいの移転後の契約解除に伴う売主の損害額については、後日の紛争を避けるために、あらかじめその賠償額の予定をしておくことが望ましいこと。そして、その予定額については、売主がその後も引続き物件を売り出すことがあっても、買主がその予定額を売主の損害額と認め、事後売主に対し異議を申し出ないことを約定しておくことが望ましいこと。 | ||
⑤ | 本件の取引をより確実なものにするために、できることなら、ある一定の時期までに買主の手持物件が売却できなかったときは、買主がその手持物件を担保に「つなぎ融資」を受け、ローンの実行に合わせて、売買代金の支払いに充てることにより、取引が実行できるようにしておくことが望ましいこと。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴について | |||
買い換え特約の内容は、あくまでも当事者(売主・買主)の合意で定めるものであり、宅建業法やその他の法令等によって強制されているものではない。したがって、その特約は当事者の自由意思に基づいて取り決めればよいので、本件のような売主の住居移転費用などを売主の損害として当事者が認め合うことは、法的に何ら問題はない。 ただ、売主の住居移転費用等が本当に売主の損害といえるのかという点について、売主が引き続き物件を売り出すのであれば、必ずしもその全額が損害とはいえないのではないかという疑問が生じるために、後日のトラブル防止のため、【回答】の⑵-④の後段にあるように、その場合においても買主がそれを売主の損害であると認めたうえで、売主に対し、事後一切異議を申し出ないように定めておくことが望ましいとしているのである。 なお、本件の買い換え特約においては、買主からの契約の無条件解除ができないケースが生じるが、そのような特約を定めることが宅建業法第31条の業務処理の原則に反しないかという点で、議論の余地が全くないわけではないが、本件の特約(特約の特約)はあくまでも売主の要請に基づく当事者の合意であって、宅建業者が主導したわけでもなく、買主の立場をことさら不利にしたり、不安定なものにするわけでもないので、同条の原則論が議論の俎上に上ることはないであろう。 |
|||
⑵について | |||
(略) |
参照条文
○ | 宅地建物取引業法第31条(業務処理の原則) | ||
① | 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない。 | ||
② | (略) |
監修者のコメント
本ケースの宅建業法との関連及び媒介をする際の注意点は、回答のとおりと思われる。しかし、質問の事実関係は、余計な紛争を生じさせるおそれがある。質問の前提は、買主の手持ち物件の売却の成就前の段階で、売主が仮住まいへの移転費用や家賃を出費することも予定されているようであるが、実損害であればともかく、あらかじめ損害賠償の予定額を決定することも円滑にできるか問題が残る。
あくまでも、買い先行ということであれば、やむを得ないが、媒介業者としては、買いの契約は、買主の手持ち物件の売却を停止条件とするとか、そうでないときでも、売主が出費を伴う行為をするのは、買主の手持ち物件の売却について見通しがついた時以降とするようなアドバイスも必要と思われる。