(公財)不動産流通推進センター編集・発行(発売:(株)大成出版社)の月刊誌『不動産フォーラム21』では、表紙において、特徴のある既存建物の有効活用事例を取り上げています。ここでは、その内容を転載し、ご紹介致します。
2023年12月26日公開
川崎市高津区、津田山の頂上付近にある築57年の住宅。日本女性初の建築家・
浜口ミホ氏が設計した、現存する数少ない建築物のひとつがここにあります。
前川國男氏を師匠とする彼女は、台所の配置を裏方から表舞台へと移動させたダイニングキッチンの生みの親とも言われています。著名な著書に住生活様式の近代化を綴った『日本住宅の封建制』があり、住む人の生活に焦点を置いた住宅計画を提唱し、当時の日本の住宅に新しい風を吹き込みました。当建物も彼女の理念が強く反映されており、庭との関係性・家族の繋がりを大切に、ダイニングキッチンを中心とした動線設計がされています。
以前の住まい手は山好きで、山小屋をイメージするような素材使いやディティールを擁しており、モダニズムの要素とともに当時の素材や建材の時を経た味のある表情も見せます。そんな歴史的価値のある住宅に5人の家族が移り住むことになりました。この地に根付く建物になるよう名称を「津田山の家」とし、リノベーション改修プロジェクトが始まりました。
浜口の考え抜かれた設計は現代でも問題なく使えるもので、基本的には同じ間取り・用途のままお使いいただくことになりました。建物のイメージを変えないよう、木製の格子窓やアルミサッシなどは極力残し、現行では製造終了した特徴的なタイルはタイルメーカー研究所協力のもと欠損した部分を再現。一方で耐震、断熱性能の改修工事は必然的でした。地下のRC造部分は既存の開口部を塞ぐことなく2枚のコンクリート壁で耐震補強を行い、木造部分は構造用合板張りや金物補強で現行基準法レベルを満たす壁量と耐力を確保。発泡ウレタン吹付工法で建物全体の断熱、気密性を高めました。むやみに新しく作り変えるのではなく、浜口が遺した建物の要素をリスペクトして、築古建物と上手に付き合い生きていくための“整える” リノベーションを行いました。
入居後しばらくして、近隣住民の方からリノベーションしたことに対し感謝を伝えられたそうです。また、以前の住まい手を招待したところ、涙されたというエピソードも。継承はハード=建物だけでなく、ソフト=その土地に生きる人、街並みをも守りつないでいくものだと、この家が教えてくれました。この地で、これからさらに美しく年を重ねていくことを願っています。
物件名称 | : | 津田山の家 |
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所 在 | : | 神奈川県川崎市高津区 |
築 年 月 | : | 1965年11月 |
構 造 | : | RC+W/地階+地上2階 |
間 取 り | : | 3SLDK |
リノベーション面積 | : | 309.41m2 |
施工期間 | : | 3ヶ月 |
設 計 | : | 浜口ミホ |
改修設計 | : | アトリエ・ワン (http://www.bow-wow.jp/) |
造園設計 | : | SOLSO(https://solso.jp/) |
施 工 | : | 株式会社NENGO |
資料提供:株式会社NENGO | ||
写真:山田新治郎写真研究室 | ||
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022」ヘリテージ・リノベーション賞受賞作品(株式会社NENGO) |