(公財)不動産流通推進センター編集・発行(発売:(株)大成出版社)の月刊誌『不動産フォーラム21』では、表紙において、特徴のある既存建物の有効活用事例を取り上げています。ここでは、その内容を転載し、ご紹介致します。
2023年11月28日公開
Before
夕張市は負債総額632億円をかかえて財政破綻した。かつては11万人が生活した炭都夕張として栄えたが、炭鉱閉山により9分の1にまで人口が減少し、加えて行政効率化の遅れ、観光施設への過大投資なども重なって負債を膨らませていった。
建物は築48年の補強コンクリートブロック造の三角屋根の家。通称「三角屋根」と呼ばれるこの建物は、戦後の行政主導により「断熱」「すきま風」「凍上」「すがもり」などの対策を検討する中で、昭和28年制定「北海道防寒住宅建設等促進法」通称(寒住法)を具現化するモデルとして、住宅供給公社により建設が進められた北海道遺産とも言える貴重な建物。しかし、壁内結露や居住空間の狭さ、築年数の古さなどから今では次々に姿を消している。
After
人口減少が進む夕張市。飲食店も数を減らしている。街のお店が無くなるのは、1つの灯りが無くなること。これ以上、街の灯りを無くしたくない。そのために夕張で空き家を活用し、古民家カフェ&バルを作ることを決意した。ふるさと夕張のため、新しい夕張の未来をつくるための挑戦である。
廃校になった小学校からイスや食器類を譲り受け再利用、地元企業からは照明器具等の寄付。地元みんなの思いで作り上げることができたのは何よりの力となった。
施主は夕張で育った後、札幌で長く料理の修行を重ねてきた。離れた場所から夕張のネガティブな話題を耳にするたび心を痛め、自分が立ち上り、ふるさと夕張の灯を一つでも増やしたいという思いでUターンを決意。その志に賛同した地域の方々に、物件提供やリノベーション工事に参加してもらい作り上げた。
予算を下げるため、スロウルは設計コンサル契約とし、通常の請負工事でなくすべて分離発注で施主が直接各社と契約。厨房設備等は施主支給、仕上げ工事は施主と家族と地域のみんなで完成させた。
自己資金700万円に加えて、クラウドファンディングにより200万円を調達。地元と道内外の旅行客の支えで順調に営業をスタートできた。夕張川、夕張岳の豊かな自然、地元農家のおいしい野菜、ここにしかない素晴らしさを多くの方々に体験してほしい。この場所で、さらなる連鎖反応を起こしたい。
物件名称 | : | くるみ食堂 |
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所 在 | : | 北海道夕張市 |
築 年 月 | : | 1970年1月 |
構 造 | : | コンクリートブロック造 |
間 取 り | : | 1LDK厨房客室 |
リノベーション面積 | : | 110.00m2 |
施工期間 | : | 3ヶ月 |
デザイン・監理 | : | 株式会社スロウル |
施 工 | : | 有限会社氏家建設 |
仕 上 | : | 施主および地域の方々 |
資料提供:株式会社スロウル | ||
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022」ローカルグッド・リノベーション賞受賞作品(株式会社スロウル) |