(公財)不動産流通推進センター編集・発行(発売:(株)大成出版社)の月刊誌『不動産フォーラム21』では、表紙において、特徴のある既存建物の有効活用事例を取り上げています。ここでは、その内容を転載し、ご紹介致します。
2020年06月15日公開
こちらは、大阪心斎橋駅から徒歩5分という好立地。今も大阪の町に数多く残る趣深い「大阪長屋」ですが、ここ数年は空き家状態が続いていました。長年雨水にさらされ、一階天井の梁の一本はほぼ腐ってなくなっていました。
施主様の「子供の頃に住んでいた思い出の家を、壊さずに残したい」というご希望、そして今後はこの建物をどのように活かすのが望ましいのか、共に考えさせていただきました。
私たちは、ある海外の方が日本を評した言葉「日本人は美しい宝石を捨て、砂利を拾う」というアイロニーを常に心に留めています。私たちの役目は残された宝石である旧い民家を守り活かすこと。こちらの大阪長屋も建物に備わった魅力を活かすべく、リノベーションさせていただきました。
長年空き家だった長屋のため、まずは安全を期した補強工事を。腐っていた梁は新しい物に交換し、今後50年は安心して使えるように耐震工事を行いました。エントランスから続く黒御影石は、そのまま黒御影石のバスルームへ。バスルームから出た坪庭には水盤を設置。水盤の光が反射するのは、コンクリートをはね出してつくった浮かぶガラスの茶室です。2階のベッドルームは和室をそのまま墨色に塗装するだけで、宝石の輝きを取り戻します。茶室に入る前に手を清めていただけるよう、キッチンのシンクは解体された家からレスキューしてきた蹲(つくばい)を加工して再利用しました。黒御影石でつくられた漆黒の湯舟につかると、そこには宇宙が現れます。その宇宙から見る、小川貴一郎氏のアート。
かつて日本の家屋では、神様と仏様がおられる神聖な空間、そして家族の寛ぎの空間とが隣合わせにあったものです。今回は失われてしまった神聖な空間を、現代的なデザインで再現しました。
物件名称 | : | 浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋 |
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所 在 | : | 大阪市中央区東心斎橋 |
築 年 月 | : | 1940年5月 |
構 造 | : | 木造地上2 階建て |
間取り | : | 3LDK |
リノベーション 面積 | : | 60.00m2 |
費 用 | : | 1,500万円(税込) |
施工期間 | : | 3ヶ月 |
形 態 | : | 自由設計リノベ |
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」ベストデザイン賞受賞作品(9株式会社) |