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2302-R-0259掲載日:2023年2月
残置エアコンの修理義務の帰属と媒介業者の責任
残置エアコンの取扱いについて、賃貸借の当事者が次のような「特約」をしていた場合、入居時に故障していたエアコンの修理費用は、貸主・借主いずれが負担すべきか。本件の取引を媒介した媒介業者に責任はあるか。
「室内のエアコンは、前入居者の残置物につき、貸主は一切責任を負わず、修理については借主の負担で行うものとする。」
事実関係
当社は賃貸の媒介業者兼管理業者であるが、このたび当社が媒介した賃貸マンションの室内エアコンが、借主の入居時に作動せず、トラブルになった。そこで、当社がその原因を調べたところ、そのエアコンは、従前の借主が部屋を明け渡した際に、すでに故障しているにもかかわらず、そのことを当社に告げず、そのまま残置したということ以外に考えられないということが判った。
従前の借主は、部屋の明渡しに際し、当社に対し「エアコンは置いていくので、よかったらどうぞ」とだけ言い、当社もまだ数年は使えるものと判断し、大家(貸主)の同意を得て、そのまま部屋に残置させることにした。
ただ、こういう機械類の残置物については、過去にもトラブルがあったので、次の借主との賃貸借契約においては、次のような「特約」を入れて、双方合意のもとに契約を締結した。
「室内のエアコンは、前入居者の残置物につき、貸主は一切責任を負わず、修理については借主の負担で行うものとする。」
質 問
1. | 貸主は、残置エアコンについては一切責任を負わないので、エアコンの修理費用は特約どおり借主が負担すべきだと主張しているが、この貸主の主張は正しいか。 |
2. | このようなトラブルに対し、媒介業者に責任はあるか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 正しい。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 原則として、責任はない。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | について 本件の特約には、「室内のエアコンは、前入居者の残置物につき、(云々)」と定められており、その所有権の帰属先が貸主ではないと宣言していることから、そのエアコンの修理費を貸主が負担しないという特約は合理的な理由があり、有効と解される。 ただ、本件の場合は、そのエアコンが最初から故障していたとのことであるが、その点については、その故障の事実を貸主や媒介業者が知っていたのか、借主に対しどのように説明したのかという問題として残るが、それは、この修理費用の負担の問題とは別の問題である。 |
||
⑵ | について 賃貸の媒介業者には、貸主がその賃貸借物件を借主に引き渡す前に、その物件に不具合がないかどうかを調査する義務がある(民法第644条)。しかし、その調査義務の範囲に従前の借主が残置した物件も含まれるかどうかは、ケースバイケースで判断される問題であり、一概には言えないからである。 |
参照条文
○ | 民法第644条(受任者の注意義務) | ||
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 |
監修者のコメント
「室内のエアコンは、前入居者の残置物」であるということは、そのエアコンは建物の一部を構成しない造作である。したがって、賃貸の目的物の一部を構成するものではない。したがって、本ケースではその特約は、原則的には完全に有効なものであり、借主は自らの負担で修理しなければならないことを認識して契約を締結したと認定すべきである。ただし、その特約に関して貸主または媒介業者が、既に現時点で作動しないことを知っていたのに、作動するかのごとく説明したり、それをあえて告げないでいたという場合は、信義則上の説明義務を怠ったということもできる。
なお、媒介業者はエアコンその他の各種設備をチェックすべきであるが、それをすべき法的な義務があるかどうかは、一概には結論を出せない難しい問題であって、個別ケースごとに諸般の事情を考慮して判断しなければならない。ただ、賃貸の対象物に含まれる、ガス器具、照明器具等の不具合があった場合は、媒介業者というより貸主の補修義務の問題となる。