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売買事例 1606-B-0215
契約解除期間経過後のローン解除について

 当社は、住宅ローン特約付きの不動産売買契約をしたが、契約書に表記した複数金融機関からは融資が承認されなかったため、急きょ他の金融機関にも融資申し込みをしたが、契約解除期間後になって融資否認の連絡があった。こういった場合、売買契約の白紙解除はできるのか。

事実関係

 当社は不動産の媒介業者であるが、売主・買主ともに個人である、中古マンションの売買仲介をした。買主は購入資金の一部を金融機関の融資を利用して用意するため、重要事項説明書並びに売買契約書には、融資の申し込み予定の金融機関名と融資金額及び融資承認取得期日、融資利用特約に基づく契約解除期日を記載し、融資の承認が得られなかった場合は、契約解除期日までは売買契約を白紙解除できる旨の特約を定めた。
 買主の資金計画は、購入経費を除いたマンション売買価額の5%が自己資金で、それ以外は融資を予定していた。物件価格に占める融資金額の割合、つまり融資率は95%と高いが、多くの金融機関では100%融資に応じていたので、借入可能と判断していた。買主の年収に占める年間の返済額は、当社が借り入れ予定金利で試算してみると金融機関の返済率基準をわずかにクリアする程度だったため、念のため売買契約書には、申し込み予定の金融機関として、都市銀行と信用金庫の2行を記載した。もし、都市銀行の融資の承認が得られなかった場合には、信用金庫に借入を申し込む予定であった。
 売買契約後、買主は予定通り都市銀行に融資申し込みをしたが否認されてしまったので、速やかに信用金庫に申し込みをしたが、残念ながらこちらも否認されてしまった。しかし、依然として買主の購入意欲は強く、当社に他の金融機関で融資が可能か否かの打診があったため、金利は他の金融機関に比較すると高いがほぼ融資可能と思われた信販系金融機関を紹介した。買主はすぐに申込をしたが、融資希望額の満額は承認されず、認められたのはほんの一部であった。
 信販系金融機関に申し込んだ時期はローン特約の融資承認取得期日前であったが、否認の連絡がきたときは、既に契約解除期日を過ぎていた。融資が否認された理由は明らかではないが、契約解除期日を過ぎていても、ローン特約を適用して売買契約を白紙解除することは可能か。

質 問

1.  売買契約書に記載していない金融機関であるが、ローン特約の融資承認取得期日前に申し込んだ融資が契約解除期日後に否認されてしまった場合は、売買契約の白紙解除はできないのか。
2.  そもそも金融機関から住宅ローンを借り入れする場合の、承認・否認の審査基準は、どのようなものになるのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 白紙解除とはならない。売買代金支払の履行ができなければ、買主の違約となる。
 質問2.について ― 住宅融資の基準は金融機関により異なるが、主な審査項目は、①人的要素(住宅ローンの借主) ②住宅ローンの申し込み内容 ③担保となる物件内容、の3点である。
2.  理 由
⑴について
 ローン特約に基づく契約解除期日までに契約解除を申し入れていないのだから、白紙解除とはならない。買主が売買契約の履行、すなわち残代金の支払ができなければ買主の違約となるため、売買契約書に定めた違約金を支払って売買契約を解除することになる。
 個人が買主となる不動産取引では、多くが住宅ローンを利用する。買主が住宅ローンを利用する売買契約においては、融資が受けられないときの措置を重要事項説明書及び売買契約書に記載することが義務付けられている(宅地建物取引業法第35条、第37条)。また、融資が受けられないときは、売買契約を白紙解除ができる旨が規定されている(国土交通省 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え 第35条第1項第12号関係)。
 なお、仲介業者が顧客に融資期日を十分に認識させないことで、契約解除期日を経過してしまったときは、仲介業者に責任が生じ、損害賠償請求がされることがある。本事例では、買主の強い購入希望があり、融資特約期日も認識しているのだから、第一義的には、買主に責任があると認められる可能性が高い。
 また、契約物件が、顧客が借入を希望している銀行等の融資対象にあたらなかった場合、融資要件を欠いていたとして、買主の要素の錯誤とみなされ、買主の契約無効の主張が認められたという判例(【参照判例①】参照)がある。また、ローン融資基準は購入者の属人的要素以外にも、取引物件の物的事情も融資条件の一つであり、融資を受けられない理由にもなる(【参照判例②】参照)ので、ローン利用を希望する購入者に対しては、どのような物件を紹介するのかにも注意が必要である。
 一方、当初申し込んだ金融機関に融資を否認され、順次他の金融機関にも融資申し込みをする場合、契約解除期限を認識していないと本事例のように買主の違約になってしまうので、期限内の融資承認が確認できない恐れのあるときは、売主の合意を得て、期日延長の取決め(覚書)を交わしておく必要がある(【参照判例③】参照)。
 借入希望額の満額が承認されたが、支払条件が購入者の支払い能力を超えたものとして、融資特約の解約解除が認められたものがある(【参照判例④】参照)ので、宅建業者としては、購入者の支払能力について、よく認識しておくことが大切である。
 買主の責めに帰さない理由により融資が受けられなかった場合に、売買契約の解除ができるが、買主が契約後に融資申し込みをしなかったり、契約解除期日を過ぎたりしたときは、解約解除はできず違約となってしまうので、宅建業者はローン申し込みの管理をしっかりとすることが必要である。
 また、上記のとおり、住宅ローン融資では、人的要素だけでなく、取引物件の物的要素もあり、売買契約後に融資申し込みをするのではなく、契約前に金融機関に打診(事前審査)することが、売買契約を円滑に進めることにつながる。
⑵について
 住宅ローンを扱う金融機関は、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫や信販・クレジット会社系、住宅ローンモーゲージ会社など様々であり、住宅融資の審査基準や貸し付け条件、金利等は、金融機関によって異なる。
 しかし、各金融機関で共通する主な融資の審査事項は、①人的要素(住宅ローンの借主)、②住宅ローンの申込内容、③担保となる物件内容の3点で、更にそれぞれの審査事項に対して細かい審査項目がある。
 まず、①住宅ローン借入者に関する審査項目としては、過去の住宅融資も含めた、クレジットカードや消費者金融、自動車ローン、教育ローンなどのローン借入履歴の有無と返済状況がある。各金融機関では、信用情報照会という仕組みで、履歴の共有がなされている。また、融資実行後の返済が可能かどうかを判断するために、勤務先とその業種、雇用形態、年収、勤続年数がある。大企業や公務員等は収入の安定性が高いとみなされるが、近ごろは、金融機関の融資獲得競争もあり、以前は借り入れの難しかった人、たとえば女性や派遣社員などの非正規社員、正社員でも勤続年数が短い人なども借りやすくなっており、門戸が広がっている。その他、人的要素として、家族構成、申込時の居住形態、居住年数、住居歴なども、審査をする場合があるようだ。
 次に、②ローンの申込内容であるが、重要な審査項目としては、年収に対する年間の返済額を計算した返済率、完済時年齢、担保比率がある。返済率の計算では、実際の融資時の金利ではなく、金融機関ごとに基準として設けている推定4%前後の審査金利が適用される。本事例では、融資実行時の2%前後の金利で計算して融資を受けることが可能と判断したが、4%前後の審査金利だと融資の範囲から外れてしまった可能性が高く、その結果、融資を否認されたのだと推測できる。金利上昇懸念も根強いことから、実務では、借入金額などの資金計画を立てる際は、金利4%程度で高めに試算し、銀行の融資にあたっての審査を無事にクリアできるよう、手がたく話を進めることが肝要であろう。完済時年齢は、多くの金融機関で75歳か80歳としている。当然、高齢でローンを組むときには、返済期間が短く、返済額も多くなり、返済率に影響が生じる。長期の融資期間を望むのであれば、親子ローンという2世代に承継するローン商品を用意している金融機関もある。物件価額に対する融資額の比率、いわゆる融資率は、以前と違い、高い水準が設定されている。以前は融資率の上限が80~85%のものが多かったが、近年は90%以上、場合によっては100%融資も可能な金融機関も多くあり、融資率より、人的な返済能力が重視されていると思われる。
 ③万一ローン借入者の返済が滞ったときには、物件を担保に、最終的には差押から競売という流れになるため、融資対象の購入物件(担保物件)の審査事項については厳しい審査項目が設けられており、担保物件が融資額に見合っているかどうかも審査される。当然、売れる物件でなければ担保になり得ない。そのために、権利関係(登記事項・権利内容)、遵法性(建築確認・検査済証、違法建築 等)、市場性(都市計画区域内外、接道状況、私道の有無や状態、土地の形状、所有権・借地権、特殊建築物 等)が重視されるが、これはまさに重要事項説明事項に該当するものである。金融機関は重要事項説明書を精査し、現地確認をする場合もあると聞く。宅建業者の作成する重要事項説明書は、融資の際の大きな判断材料なのである。

参照条文

 宅地建物取引業法第35条(重要事項の説明等)
 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
~七 (略)
 契約の解除に関する事項
~十一 (略)
二 代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
三、十四 (略)
 同法第37条(書面の交付)
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
~六 (略)
 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
 (略)
 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
~十二 (略)
・③(略)
 国土交通省 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え 第35条第1項第12号関係
 (略)
 ローン不成立等の場合について
 金融機関との金銭消費貸借に関する保証委託契約が成立しないとき又は金融機関の融資が認められないときは売主又は買主は売買契約を解除することができる旨、及び解除権の行使が認められる期限を設定する場合にはその旨を説明する。また、売買契約を解除したときは、売主は手付又は代金の一部として受領した金銭を無利息で買主に返還することとする。

参照判例①

 東京高裁平成2年3月27日判時1345号78頁(要旨)
 売主業者は、みずからが財形融資に直接関与する立場にあったわけではないが、買主にとっての財形融資の重要性を知っていた売主業者としては、その点に関する説明ないし後見的配慮に欠けるところがなかったとは到底言い難いとして、融資要件を欠いてたとして、買主の要素の錯誤にあたり、買主の契約無効の主張が認められた。(同様の判決:東京地裁平成5年11月25日判時1500号175頁)

参照判例②

 東京地裁平成8年8月23日判時1604号115頁(要旨)
 ローンを利用して不動産を購入しようとする者にとっては、ローンを受けられない理由が購入者の属人的要素であるか、目的物の物的事情によるものであるかにかかわらず、ローン貸付けが受けられない以上、代金支払に窮することになり、売買契約を解除する必要性がある。

参照判例③

 福岡高裁平成11年8月31日判時1723号60頁(要旨)
 買主が遅滞なく必要書類を提出してローンの申し込みをしたにもかかわらず、期限内にローンが実行されない場合には、改めて期限の猶予等がされない限り、期限の経過をもって当然に売買契約が解除となる。

参照判例④

 大阪高裁平成12年6月27日金商1108号38ページ(要旨)
 金融機関の融資条件は、買主の返済能力を超えており、買主において許容できる範囲を超えた融資条件であり、銀行融資不可能の場合にあたるというべきであり、売買契約は本件約定により無条件に解約となる。

監修者のコメント

 ローン特約に基づいて、売買契約が白紙に戻る方法には2つがある。一つは、予定された融資が受けられなかったときは、売買契約が自動的に解除となるもの(解除条件型:参照判例③④はこれ)と、もう一つは、融資が受けられなかったときは、一定の期日まで買主が売買契約を解除することができるというもの(解除権留保型)である。前者(解除条件型)の場合は、当然に売買契約が解除となるが、後者(解除権留保型)の場合は、買主が解除の意思表示をしない限り、売買契約は存続し、約定の解除期限を経過すればもはや解除できないのは当然である。そして、融資が受けられないので、代金を支払期限に払えず、しかも不動産の売買では、代金の1割ないし2割の違約金が定められていることが多いので、買主にとっては、融資は受けられない、高額の違約金を支払わなければならない、という踏んだり蹴ったりの事態になってしまう。
 したがって、質問のようなケースを回避するためには、ローン(融資)特約が、上記のどちらのタイプかを確認し、解除権留保型のときは、とにもかくにも、解除の期限に十分な注意を払う必要がある。買主側の仲介業者のローンについての関与の程度にもよるが、ローンに深く関わっていた仲介業者がローン解除の期限に適切なアドヴァイスをしなかったとして、ローンの指導・助言義務違反に問われる裁判例もあるので、十分注意されたい。

より詳しく学ぶための関連リンク

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